PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「コトモノミチ 〜デザインが伝統工芸を変えていく〜」

セメントプロデュースデザイン代表

金谷 勉 氏Tsutomu Kanaya

PROFILE
京都精華大学人文学部を卒業後、企画制作会社に入社。広告制作会社勤務を経て、1999年にデザイン会社「セメントプロデュースデザイン」を設立。大阪、京都、東京を拠点に企業のグラフィックデザインやプロモーション、商品開発のプロデュースに携わる。2011年からは、全国各地の町工場や職人との協業プロジェクト「みんなの地域産業協業活動」を始め、600を超える工場や職人たちとの情報連携も進めている。職人達の技術を学び、伝える場として「コトモノミチ at TOKYO」を東京墨田区に、大阪本社に「コトモノミチ at パークサイドストア」を自社店舗展開。経営不振にあえぐ町工場や工房の立て直しに取り組む活動は、テレビ番組『カンブリア宮殿』や『ガイアの夜明け』(テレビ東京系列)で取り上げられた。各地の自治体や金融機関での商品開発講座を行い、年間200日は地方を巡る。

第1部:講義「コトモノミチ デザインが伝統工芸を変える。」

講義1

今回のプレックスプログラムはセメントプロデュースデザイン代表の金谷勉さんを講師にお迎えしています。金谷さんは、大阪・東京・京都を拠点に、工芸や工場の現場と並走したデザイン設計と流通のプロデュースを行なっています。伝統工芸をはじめとした地域産業の多くは、中小企業です。長年抱えている経営や後継者問題に加え、昨今のコロナ禍で物販も苦しい状況だといいます。また電気自動車などの技術の進歩で、従来の生産を支えた多くの工場や技術が失われる未来も近づいています。本日はこのような状況の中で、地域産業の課題を解決するためのデザインとはどのようなものかをお話しいただきます。

講義2

アイデアや企画案は技術、素材、業界、伝え先の4要素の掛け算で、どこに新しい要素を掛けるかが重要だと金谷さんは仰います。ある扇子工房では、扇骨の素材が「竹」であることに着目し、アロマディフューザーを開発。夏にしか収入が得られない季節労働問題を解決しただけでなく、インテリアという新たな業界に商品を展開することができました。また、あるタオルメーカーは「その年に収穫したオーガニックコットン」とアピールすることで、出産祝いのギフトとしての特別な価値を作り出すことに成功しました。デザインとは、課題解決のためにこれまでの技術や方法を見直し、考え実行することで、「見た目がいいものを作ること」だけではありません。

講義3

製造業とデザイナーが協業したモノづくりの問題が各地で起きています。それは、企業が抱えている課題にフォーカスせずに商品開発を行い、現状をさらに悪化させてしまうことです。例としてあがったのが、クリエイターコラボの雛人形です。多くの人に手に取ってもらえるようにとかわいく安価に作った雛人形は、伝統的な雛人形が適正価格で売れなくなる危険性をはらんでいます。「人形が売れない」という悩みから一歩踏み込むと、人形製造業も夏に収入がないという季節労働問題が隠れています。本当の課題を解決するために、かわいい雛人形は適切な商品なのか、とりあえず作ってしまう前にデザイナーは企業の課題を慎重に見直す必要があります。

講義4

デザインが中小企業のモノづくりを変えることを実感した事例を紹介していただきました。金谷さんはある型工場と、精細な手彫りの型の技術を活かしてマグカップを開発しました。工場の方はずっと下請けの仕事をしてきたため、展示会に出品して商品を褒められる経験は初めてだったといいます。請負事業社の1社から仕事相手が広がり、また全国の使い手からの反響や応援を直に受け取ることで、社員の意識が変わりました。今では金谷さんに頼らず自分たちで企画開発に挑戦しているといいます。「商品開発の取り組を行うことで、会社の状況だけでなく相手の視座まで変わっていくのが面白いと思いました」と金谷さんは嬉しそうに仰いました。

第2部:「漆の商品開発」

ワークショップ1

後半はワークショップを行います。本日のテーマは「漆」の商品開発です。前半の講義で出た、技術、素材、業界、伝え先の4要素の掛け算を思い描きながらアイデアを出し合います。漆の性質や日本の漆工芸の課題などを調査しつつ、それぞれの要素からプロダクトを考えることが重要です。ワークショップに取り組む学生の中にはデザイン案の資料を持参した人も見られます。「みなさんが考えているものをどこで売るのかも具体的に考えてみてください。神社なのか、動物園なのか……。展開先についても発表してもらえると嬉しいです」と金谷さんからアドバイスをいただきました。

ワークショップ2

学生たちのアイデアを紹介します。まず提案があったのは、ベルトのバックルを漆塗りにするアイデア。模様のバリエーションと、使わないときはクローゼットのおしゃれな防虫用品として活躍できる強みがあるそうです。タックインなど、ベルトをアクセントとして使う若者のファッションの市場に展開します。また、漆の食器の口当たりの良さが印象的だったという体験から、漆のストローを提案する学生も。プラスチックから変わりつつあるストロー市場で、紙ストローの口当たりの悪さや金属製のストローの冷たさなど、触感の問題を解決する選択肢としてのアイデアです。他にもキャットタワーや三角コーナー、ゲームデバイスの外装など、漆の可能性と販路を広げる斬新なアイデアが発表されました。

ワークショップ3

それぞれのアイデアに関連づけて、金谷さんが見た漆工芸の現状についても共有していただきました。現に独自の技術を磨いている漆職人の存在、金谷さんの会社でチャレンジした漆塗りのコーヒーメーカーのエピソード、日本産と輸入の漆のそれぞれの行く先など、学生たちは興味深く聞き入っていました。「工芸の世界はまだまだシリアスなものづくりをやっている人が多くて、みんなエルメスのような高級ブランドを目指しています。僕はそれだけではなくて、クロムハーツみたいなワンモチーフで、ゴリッとした若者に支持されるような工芸ブランドも作れればいいなと思っているんです。この渋谷から若い感性の商品が産まれてくれればなと思います。」

総評

最後に総評をいただきます。「モノづくりは真水思考から脱却し、考え、行動することが必要です。僕たちはデザインはこうあるべき、職人はこれはしないという固定観念を意外と持っています。陶器のパッケージングも業界では問屋任せが当たり前でしたが、自分たちでもできるんです。商習慣も見直して新たな開拓をしていくことで次世代のモノづくりに進めます。みなさんには新しい淀みを持ってほしいと思います。淀みは本来は河川が合流したところを指し、力強さの意味で使われていました。平行に流れていたら淀むことはないんですけど、工場、職人、僕らが出会って一本になったら、いい淀みができて真水の思考が変わっていくと思います。」