PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「デザイナーとしてのギフト」

ダイナマイトブラザーズシンジゲート代表/アートディレクター/エディトリアルデザイナー

野口 孝仁 氏Takahito Noguchi

PROFILE
1999年、株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート設立。「ELLE JAPON」「装苑」「GQ JAPAN」「Harper’s BAZAAR日本版」「東京カレンダー」「FRaU」など人気雑誌のアートディレクション、デザインを手がける。現在はエディトリアルデザインで培った思考を活かし、老舗和菓子店やホテル、企業のブランディング、コンサルティングなど積極的に事業展開している。著書「THINK EDIT 編集思考」、(日経BP)TV出演「トップランナー」(NHK)。東京デザインプレックス研究所講師。

第1部:講義「エディトリアルデザイナーという仕事」

講義1

本日の講師は、ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート代表の野口孝仁さんです。はじめに自己紹介として、デザイナーを目指したきっかけ、そして今に至るまでのお話しをしていただきました。どうしたら合コンで“ モテるだろうか” と考えた結果、美大への進学を希望。その後も“ モテるのでは” という理由で、空間デザインに関わる仕事についたそうです。赤裸々で身近に感じられる言葉やお話に、受講生はグッと引き込まれていきます。そうして働いている間に、ただ“ モテたい” という気持ちだけでなく“ 何かものを作ってごはんを食べるのは良いのではないか” という思いが生まれてきたそうです。

講義2

当時ロゴ作りに深い興味を持っていた野口さんは、この作業はグラフィックデザイン、中でも雑誌を作る作業に似ていると思い、学生時代の愛読書『ポパイ』の編集部にアポイントを取ります。ここでゼロからやりたいという気持ちから、具体的な作品を提示するのではなく“ 作品はカラダです” とアピールしたのを面白がられ、マガジンハウスで働き始めることに。勝手も用語もわからず飛び込んだ世界で、徐々にステップアップをしていき、きっかけとなった『ポパイ』を担当するデザイナーとなります。その後、デザイン事務所Capを経て、独立。

講義3

次に最近のお仕事を紹介していただきました。商品自体の提案、メニュー開発から携わった老舗和菓子屋の鶴屋吉信のパッケージデザイン。必ずしもクライアントは答えを持っているわけではなく、本来の問題を見つけそれを解決していくことが大切であると気づけたという、神奈川県の私立高校を盛り上げるプロジェクト。雑誌と出会う新しい形の提案として行った、自動販売機で雑誌を売るという自社企画。種類は様々ですが、雑誌作りの考え方を生かして全ての仕事をしているそうです。「編集とは、“ 集めて編む” ということで、様々な点をどう集めてどう編んでいくかが重要。さまざまな思考で編んでみると同じ商品が違う見え方をする。そこを軸にデザインを考えている」とおっしゃっていました。

講義4

次に野口さんが関わっている美術手帖を用いて、雑誌ができるまでの流れを詳しく説明していただきました。「各ページを差別化しながらも、全体を見ることが大切」。デザイナーの実際のメモが入った企画書や台割、ラフを見せてくれ、企画からどのように訂正が入り、変化し、完成に至るのかをリアルに感じることができました。野口さんは自身について、デザイナーへの美しい理想の道を歩んできていない、と言います。そんな野口さんが発するから説得力があります。とにかく続けること。そうすればいいデザイナーになると思う。この言葉は多くの受講生の心に残ったことでしょう。

第2部:ワークショップ「大切な人への贈り物」

ワークショップ1

後半はワークショップを行っていきます。今回の課題は『大切な人への贈り物』。「この仕事で大事なのは、何も感じさせないで、自然に相手をどう促せるかということ。それは、大切な人のことを考えて何かサプライズをしようと考えることと同じ。これはただのワークショップではなく、これから受講生たちが仕事をしていくにあたって、この感覚をずっと持っていてほしい」という野口さんの思いが隠されているものでした。

ワークショップ2

5 人ずつのグループに分かれ、それぞれ事前に考えてきた贈り物について発表していきます。大切な人のことをじっくり考えてきたということが、受講生たちのキラキラとした表情から伺えます。相手の喜ぶ姿を想像すると、自分も嬉しくなってくるということでしょうか。どこのグループからも笑い声や拍手が絶えず聞こえてきました。30 分ほどで全員が発表した後に、各グループから1名選出し、全員の前でプレゼンを行っていきます。

ワークショップ3

母の日父の日に家族の思い出が詰まったWebサイトを。元職場の先輩へ手作りのアクセサリーを。お世話になっている人へ旅行を。どこかのだれかへボトルメッセージを。妹へ貝割れ大根のストッキングでサプライズ体験を。母の誕生日に肩TATAKI券を。ルームシェア中の友人へHUGticketを。会社の同僚に竹のメッセージボックスを。具体的なシチュエーションとともに相手にどう感じてほしいのかを発表していきます。どれも、渡している場面がとてもよく想像できるプレゼンで、会場全体が自然とあたたかい雰囲気に包まれました。

総評

「漠然とした課題だったが、とても的を得ていた。デザインは世の中を必ず良くしていくものだから、今日の課題の考え方、想いを生かして将来いいデザイナーになってほしい」。全く飾ることのない野口さんのお話は、受講生の中にスッと入り、グッと残り、これからのそれぞれの活力にもなったのではないでしょうか。技術ばかりでなく、このような気持ちを持つことは大切だと改めて気づくことが出来ました。