PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

第1部:講義「デザインをどう成立させているか」

アートディレクター/グラフィックデザイナー

久能 真理 氏Mari Kunou

PROFILE
言葉になる前のものを、形にする。ブランドの核をつくるアートディレクター。まだ見えていない本質をすくい上げ、静かな必然性を持つデザインへ翻訳する。CI、パッケージ、エディトリアル、web、空間など、領域を横断しながらブランドの世界観を立ち上げている。千葉県生まれ。武蔵野美術大学 造形学部 空間演出デザイン学科卒業。 yotsugi yasunori incorporation を経て、水野学氏率いるgood design company入社。2011年独立。これまでの仕事に、台湾の漢方医院・薬局「意一堂中醫診所」リブランディングプロジェクト、文具ブランド「grand jeté」(マルマン)商品企画を含むブランド立ち上げ、ラフォーレ原宿「LAFORET PRIVATE PARTY」、ANNA SUI「ANNA SUI × 7MANGA」商品企画を含むアートディレクション、写真集『forward』装丁デザイン(世界で最も美しい本コンクール選出)など。日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)会員。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「デザインをどう成立させているか」

講義1

本日は9年ぶり3度目のご登壇、グラフィックデザイナー/アートディレクターの久能真理さんにお越しいただきました。現在はブランディングを中心に、プロダクト企画などにも携わっている久能さん。今回は特別に、久能さんがこれまでデザインされた製作物を手に取りながら理解を深められる貴重な機会です。講義では、ご自身の経験をもとに実践的な知見を共有いただきます。

講義2

最初の話題は、過去の仕事から紐解くデザインの着地までの話。『LAFORET PRIVATE PARTY』の顧客限定インビテーションを事例に解説してくださいました。「限られた予算の中で、限定性や、受け取った際の高揚感をいかに生み出すかがポイントだった」と久能さん。採用された「be PINK」というコンセプトは、ドレスコードから着想を得たもので、ピンクを単なる色ではなく高揚感や幸福感をまとう状態そのものとして設定したといいます。

講義3

「具体的には、人物や動物の写真において顔部分をピンクの円で覆う加工を施し、物理的に“ピンクになる”状態をビジュアルとして表現しました。」写真は商用利用可能な素材を使用し、さらにインビテーションは色数を抑えた特色印刷でコストを削減。蛇腹折り形式で複数の写真を採用することで、見る人の好奇心を喚起する設計に。こうした工夫により、限られた条件の中でもコンセプトを軸に表現を広げ、特別感と期待感を両立させたビジュアルデザインを完成させました。

講義4

続いての話題は「作り始めるときのプロセス」について。「デザインを始める時、イメージやプランが無いまま、いきなり画面に向かっていませんか?」と問いかける久能さん。どんな人に手に取ってもらいたいか、どんな雰囲気に仕上げたいか、それを見た人にどんな気持ちになってもらいたいかなど、いきなり手を動かすのではなく事前の設計が重要だとおっしゃいます。方向性を定めることで、デザイン全体の一貫性を保つ役割を果たすことができるといいます。

講義5

方向性を定めた後、参考資料を収集する場合には、そこから得た要素を「観察・言語化・分類」していくのが久能さん流。「まず、自分が良いと感じたものを観察し、なぜ良いのかを言語化します。『イラストが使われているから』『余白の取り方が心地よいから』など、理由を明確にするのです。そして、それらを要素ごとに分類し、共通点や組み合わせの可能性を探ることで、方向性に沿った視覚表現の手がかりを捉えていきます。」

講義6

学生から「インプットはどのようにしていますか?」という質問が挙がると、「今から言う飲料メーカーのロゴを、記憶を頼りに書いてみてください」と久能さん。「身近にあるものでも、意外と見ているようで見ていないことに気づいたでしょうか。このような身の回りにある要素を、自分ごととして観察する習慣をつけてみてください。普段から観察のスイッチをオンにするだけでインプットの量は大きく変わります。」

講義7

ここで紹介してくださったのは、インプットしたものを収集する「スクラップ帳」と、良いと感じたものを観察し書き写す「観察スケッチ」です。「技術が未熟で引き出しが少ないうちは、積極的に真似ることも重要です。良いと思うものを取り入れながら、気づきを言語化し、ストックしていってください」と語ります。久能さんは、観察して終わりではなく、分類と分析を継続して取り組むことの重要性を話してくださいました。

講義8

最後にメッセージをいただきました。「試行錯誤の段階にある今だからこそ、たくさん『見て』『触れて』『作る』経験を重ねてほしいと思います。名作とされるものに触れたり、気になるものを実際に見に行ったり、日々の積み重ねが視野を広げてくれます。今の環境もぜひ最大限に活かしながら、自分なりの引き出しを増やしていってください。デザイナーとしての人生を楽しんでほしいです。」久能さん、貴重なお話をありがとうございました。