PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「デザインのオルタナティヴ」

クリエイティブディレクター

石井 大介 氏Daisuke Ishii

PROFILE
デザイナー、京都芸術大学芸術教養センター専任講師。大学在籍中にアパレルブランドの立ち上げに参加。卒業後渡米し、Parsons School of DesignのDesign & Technology専攻を修了後、現地の制作会社で映像・グラフィックの制作に携わり、帰国後デザイン関連の教育機関にて開発業務に従事。独立後はファッション、インテリア、ICT関連企業などでコンサルティングを行う。現在、京都芸術大学芸術教養センターにて、デザイン概念の研究を行っている。東京デザインプレックス研究所デザインファンデーションコース 講師。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「デザインのオルタナティヴ」

講義1

今回は3年ぶり6回目のご登壇、クリエイティブディレクターの石井大介氏をお迎えします。講義のテーマは「デザインのオルタナティヴ」。プレックスプログラムで通常扱われる実務的なスキルや制作技術にフォーカスした内容とは異なり、デザインという言葉の根本的な意味や歴史を振り返る講義です。学生との対話を交えながら、一般的なイメージとは異なる「オルタナティヴ(代替的、循環的)」なデザインのあり方について考察していきます。

講義2

講義の冒頭では、学生が現時点で「デザイン」と「オルタナティヴ」という言葉に、どのようなイメージを持っているかを書き出し、互いに共有するワークが行われました。「デザイン=課題解決」「オルタナティヴ=代替案、新しい方法」といった意見や、「デザインは表現方法の選択肢」というような多様な視点が飛び交いました。学生たちはここで実施した対話をベースに、本題の講義へと移ります。

講義3

石井さんはオルタナティヴという言葉について、「代替案」や「二者択一」という意味のほかに、「繰り返し」や、季節の移り変わりのような「循環的な運動」というニュアンスも含まれていると話します。ここで重要なのが、「もう一方の存在なしに考えることができない」という特性です。オルタナティブとは、現在のメインストリームを単に否定するのではなく、既存のデザインと循環性や互換性を持つ、もう一つのデザインのあり方を思考することだと石井さんは言います。

講義4

次に、デザインの概念についてです。一般的に、近代デザイン史は、18世紀の産業革命における機械化と、それに反発する手仕事の復権(アーツ・アンド・クラフツ運動)から説明されます。しかし、デザインという言葉のルーツはさらに古く、ラテン語の「デジナーレ」やイタリア語の「ディセーニョ」に遡ります。元々は「指示する」「境界線を引く」「構想する」「描く」といった意味合いで使われており、視覚的な線を引くことと、理想の道筋を描くという二つの意味として用いられていたことが、オルタナティヴな視点から解説されました。

講義5

1563年にフィレンツェに設立された世界最古の美術アカデミーの一つである「Academia Delle Arti Del Disegno」は、日本語に訳せば「デザインの技術アカデミー」という、主に絵画・彫刻・建築を扱うアカデミーであり、ミケランジェロが「ディセーニョの父」と呼ばれていたという、当時の歴史的言説も紹介されました。また、西洋芸術にヨーロッパにおいては、アートとテクノロジーはテクネー(techne)という語源から派生しており、それぞれ分離することが難しい、周期的な概念として機能していたことが語られました。

講義6

講義の後半では、西洋の伝統的な枠組みとは異なる「美学(エステティクス)」のオルタナティヴについて議論が展開され、ブラックカルチャーの文脈や視点を参照しながら、ジャズやブルース、ヒップホップにおける、音の「ズレ」や「即興性」を通じた独自の感性のあり方が紹介されました。美学を「完成された作品を評価する基準」としてではなく、「共同で関わり合い、不自由な環境を生き抜くための技術」や「感覚の集合体」として捉え直す視点が共有されました。

講義7

終盤では、現代の社会システムの中での生き方についての考察が語られました。効率や結果が重視される現代のシステムに対して正面から対抗するのではなく、そこに「いながら属さない(to be in , but not of)」ことの重要性が指摘されました。与えられた環境やルールをうまく利用し、逸脱・逃亡しながら、関係性や自分の居場所を固定しない生存術は、多様なカルチャーの成り立ちにも通じることが示唆されました。

総評

学生からは、「巨大なシステム(資本主義など)といかに向き合うか」といった問いや、「民藝のような生活に根ざした手触り感のある表現への興味が言語化された」といった感想が寄せられました。石井さんは、「現在のメインストリームを否定したいわけではなく、自分にとって、そうとしか考えられないデザインを見出したい」と語りました。既存の枠組みから少し「ズレる」ことで、これまで見えていなかった豊かな可能性を考える講義となりました。石井さん、ありがとうございました。