PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「ロボットデザインとIoT」

フラワーロボティクス代表/ロボットデザイナー

松井 龍哉 氏Tatsuya Matsui

PROFILE
ロボットデザイナー。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わり、2001年フラワー・ロボティクス社を設立。ヒューマノイドロボット「Posy」「Palette」などを自社開発する。「Palette」は09年より販売、レンタル開始。2014年松井デザインスタジオを設立し、同年「Patin」を開発。航空会社スターフライヤーのトータルデザイン、ダンヒル銀座本店店舗設計、KDDI「iida」のコンセプトモデル「Polaris」のデザイン・開発などがある。MoMA、ベネチアビエンナーレなど出展多数。iFデザイン賞、グッドデザイン賞など受賞多数。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「ロボットデザイン」

講義1

本日は4 回目の登壇となるロボットデザイナーの松井龍哉さんをお迎えしてお送りします。その名の通り「ロボット」をデザインするお仕事ですが、そのテクノロジーや、人間との関わり方、ロボットならではのデザインアプローチについて、貴重なお話が聞けそうです。まず松井さん自身がどのような経緯でロボットを創るに至ったかを順を追って説明しながらの講義のスタートとなりました。

講義2

最初は松井さんが大学時代に研究をしていた、世界で初めてのデザイン教育機関であるバウハウスのお話からです。バウハウスでは建築が重んじられており、松井さん自身も丹下健三事務所で働くなど、建築に関わっていました。ですが建築家になりたいと思ったことはなく、ネットワーク抜きにこれからのデザインは語れないと考え、渡仏しコンピュータサイエンスを学びます。その後、米系企業にてインターフェイスデザインを担当しましたが、ふと松井さんは完全主義になりがちなこの分野にリアリティを求めるようになります。そこで建築という人間の生活に直接関わる現実とネットワークとの間に何か見出せないかと考えた末に、ロボットというテーマに辿りついたと語っています。ボディは実空間にあるが、情報はネットワーククラウド内にあるロボットという概念に松井さんはいち早く強い可能性を抱いたそうです。

講義3

松井さんは2001年に「フラワーロボティクス」を創業します。この頃はロボットというと「漫画ですか?」という感じで社会的には殆ど空想に近い捉えられ方をしていたそうです。松井さんは“22 世紀に評価されるもの” をモットーに、近代でいう車、コンピュータ等の新しい産業になるものに注目した、と話します。そして現代でのスマートフォンの様にロボットを日常の風景にすることが「フラワーロボティクス」の企業理念であるとしています。自身の製作した「Polaris」や「Palette」を参考に、社会にインパクトを与えることの大切さや量産体制の難しさなど、興味深いお話を語ってくださいました。松井さんのお話に熱が帯びてきたところで、続いてロボットについての解説が始まります。

講義4

ロボットはその歴史の中で、役割が愛玩用と産業用の二つに大分できるそうです。また、定義としてセンサー、知能・制御系、駆動系の三つの要素技術があるものとしています。松井さんは自身のデザイン対象を、ロボットの自律性としています。ロボットが環境の中から情報を自ら取捨選択し、行動基準をつくるものを「自律型ロボット」と言います。その設計思想を基に、人間とロボットそれぞれの環境の共通項を見つけ人の生活に自然と共存させることがロボットデザインの本質であるということを「Patin」や「Robocup」のお話を交えながら語ってくれたところで前半部は終了となりました。

第2部:ワークショップ「ひとまとまりの価値」

ワークショップ1

ここからはワークショップのスタートです。お題は現代のIoT 時代を踏まえての「ひとまとまりの価値」。人の生活を豊かにするための仕組みを提案してもらいます。完全に新しいものをつくることは少なくなっており、複数の既存の機能をある価値に基づいて繋げていくことを目指して企画を進めることがポイント。5 〜6 人程のチームに分かれて、ディスカッションタイムがスタートです。

ワークショップ2

あっという間に時間が過ぎ、発表と講評が始まります。いくつかのチームの発表を紹介します。最初は「ただいま!から始まる家事」。ドアノブが人の健康、精神状態を察知しその人にあった料理を用意したり、アロマを焚いたりするというアイデアです。またドア自体が着ている服を解析し、服の洗濯方法や明日何を着ていけばよいかを提案してくれるといった面白い案でした。続いては「冷蔵庫内の可視化」です。スマホで冷蔵庫内を管理することができ、食材などの購入履歴からのレコメンド機能を持ち、人がどんな食材を買ってどんな料理を作っているかをビッグデータ化し、新商品開発や新しいニーズの発見などが期待できるといったものでした。

ワークショップ3

まだまだ発表は続きます。次は「家と家で繋がる人々」。こちらは物理的な距離を解決するアイデアです。例えば、帰省しなくてもディスプレイを通じてお互いが本当にその場に居合わせている様な環境を提供するといった案でした。こちらについては松井さんからさらなる提案が。「8K テレビを使い、家同士のハードウェアを連携させて、相手の家の音や照明の加減を連動させたり、相手の空気がこっちまで流れてくる技術はもう存在しています。それを使うと面白くなりそう。」続いては「カメレオンハウス」。壁紙の材質が変化したり、色んな国の雰囲気をディスプレイで再現して、その家に住む人の体験を変えるといったものとなります。少ない時間の中で懸命にアイデアを出し合う学生たちの姿が印象的でした!

総評

ワークショップの発表と講評が終わり、松井さんからの総評です。「今のマーケットに合わせていくというよりは、少し先の未来を予測してデザインすること。綺麗に丁寧にモノづくりをすることも大事ですが、これから起こるであろう何かに対して新しいモノをデザインすることがデザイナーに求められる重要な能力になってくると思います。マーケティングからだけでなく、ある予測を基に新しいアイデアでモノづくりをするということを少しずつ考えていっていただければいいかなと思います。」