PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「デザインの在処」

UXデザイナー

甲斐 一再 氏Meguru Kai

PROFILE
プロダクトデザイナー、デザイン会社代表。青山学院大学大学院 総合文化政策学研究科 所属。Web・アプリ・サービスデザインの現場を20年にわたり経験し、リサーチから設計・画面落とし込み・検証までを一貫して手掛ける。実務の傍ら、企業研修やUX組織開発の支援、大学院でのデザイン史・メディア研究を並行し、現場とアカデミックの双方から人びとの「体験」を探求し続けている。デザインカンファレンス「Spectrum Tokyo Fest 2026」登壇。東京デザインプレックス研究所UX/UI専攻 講師。

第1部:講義 「私たちは何をデザインしているのか」

講義1

今回ご登壇いただいたのは、初登壇となるプロダクトデザイナーの甲斐一再さんです。甲斐さんは、プロダクトデザイナーとして20年以上にわたりUX/UIデザインに携わる一方、青山学院大学大学院でデザイン史・体験の歴史を研究しています。当校ではUX/UI専攻の講師を務めており、今回の講義では「デザインの在処」をテーマに「私たちは何をデザインしているのか」「体験は設計できるのか」という問いを提示しました。デザイナーが意図したデザインはユーザーにどのように受け取られるのかという視点から、デザインとユーザーの関係について考える講義が始まりました。

講義2

甲斐さんは、「デザイナーは意味や価値、機能を設計しているつもりで制作しているものの、実際にそのデザインをどう受け取り、どのような意味を見いだすかはユーザー次第であり、デザイナーがそれをコントロールすることはできない」と話します。自身の経験から、「意味を作っていると思っているのはデザイナーだが、本当に意味を与えているのはユーザーなのではないか」という問いを持つようになったといいます。そして、この考えを整理するため、「物理・機能・意味・社会」の4層から体験を捉える「体験の4層構造」という考え方が紹介されました。

講義3

4層構造を説明する事例として取り上げられたのは「ポケベル」です。甲斐さんは、「発売当初は相手を呼び出すための機器でしたが、数字表示やカナ表示の機能が追加されると、ユーザーは語呂合わせなどを用いてメッセージを送り合い、コミュニケーションツールとして活用するようになりました。この使い方は開発者が想定したものではなく、ユーザーが自ら意味を見いだした結果だと思います」と説明しました。そして、「デザイナーは機能を作った。ユーザーが意味を与えた」と語り、デザインの在処やデザイナーとユーザーの関係について考えを深めました。

講義4

ユーザーが意味を生み出すのであれば、デザイナーに必要なのは「どうすればユーザーの意味に近づけるかを知ること」だと甲斐さんは話します。そのために重要なのがUXリサーチです。UXリサーチでは、求められる機能だけでなく、その機能にどのような価値や意味を見いだしているのかまで調査します。ガラケー時代の着メロは、音を鳴らす機能以上に、自分らしさや好みを表現するアイデンティティとして使われていたことを例に挙げ、意味的体験層を理解する難しさを説明しました。「意味づけそのものをデザインすることはできないからこそ、他者との対話を通して、ユーザーが見いだしている意味を理解することが大切になります。」

講義5

続いての話題は、プロダクトにおける「良いデザイン」についてです。メッセージを送る際にボタン操作を意識しないことや、子どもがクレヨンを握ることではなく絵を描くことに集中している状態を例に挙げ、「意識されない道具」が良いデザインであると説明しました。「物理的体験層をデザインするときは、いかに道具を意識させないかをデザイナーは考えます」と話し、そのためには人がどこでつまずき、どこで使いづらさを感じているのかを把握することが欠かせないといいます。「観察」を通して課題を発見し、UIや操作フローの改善につなげていくことも、UXリサーチの重要な役割の一つであると説明されました。

講義6

体験の4層構造「物理・機能・意味・社会」について振り返りながら、「これらは観察と対話によって初めて浮かび上がる」と話す甲斐さん。「デザイナーにとっての当たり前とユーザーにとっての当たり前は異なり、人は自分一人ではその違い(自明性)に気づくことはできません。そのため、ユーザーを観察し、対話を重ねることで他者の視点を知ろうとする姿勢が重要になります。デザイナーとユーザーの双方向のコミュニケーションが、デザインの発展につながっていると思います」と語りました。

第2部:「ワークショップ・総評」

ワークショップ1

講義後半のワークショップでは、「NASAゲーム」を実施しました。月面で遭難したという設定のもと、生き残るために必要なアイテムの優先順位を個人で考えた後、グループで話し合い、一つの答えを導き出します。「大切なのは、他の人の価値観を聞きながら、お互いが納得できる答えを見つけていくこと」と甲斐さん。最後には正解が配られ、「多くの場合、一人で考えた答えよりも、チームで導き出した答えの方が正解に近づいているはず」と振り返りました。観察と対話の重要性を、実践を通して学ぶ時間となりました。

総評

最後に総評をいただきます。「道具にどんな意味を見出し、どのように使うのかを考えることは、デザインをする上でも、使い手としても非常に大切です。デザイナーが意図していなかった使い方をユーザーが生み出すことで、新しい発想をデザイナーが受け取り、より良いデザインへと還元していく循環ができます。さまざまな捉え方ができる道具は、ユーザーの創造力を引き出す『良い道具』だと思います。道具をつくる時はその意味を捉え直し、ユーザーとの対話や観察を通して、より良いデザインを共に創り上げていけたらいいなと思っています。」甲斐さん、ありがとうございました。