PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「情報に形を与える―思考へと導くデザインの可能性について~Part2~」

中野デザイン事務所代表/アートディレクター

中野 豪雄 氏Takeo Nakano

PROFILE
大学在学中、身体性に深く関わる書物の構造に惹かれ、製本、印刷、タイポグラフィなど、書物形成における理論と実践を学び、卒業制作にて書物の歴史的変遷と分布の視覚化を研究する。現在、株式会社中野デザイン事務所代表。主な仕事に「印刷博物館・総合リニューアルプロジェクト」「建築雑誌2012-2023」「視覚の共振♾️勝井三雄」「光村教育図書『新小学国語辞典・漢字辞典』等がある。日本タイポグラフィ年鑑グランプリ受賞。世界ポスタートリエンナーレトヤマ、ラハティ国際ポスタービエンナーレ、中国国際ポスタービエンナーレ、JAGDA年鑑、日本タイポグラフィ年鑑、TDC年鑑入選。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「プロセスの設計」

講義1

今回は、2年ぶりで5度目のご登壇の、アートディレクター/グラフィックデザイナーの中野豪雄さんにお越しいただきました。ブックデザインやインフォグラフィックス、文化施設、商業施設のサイン計画や空間グラフィックなど、幅広く活躍されている中野さん。断片的に情報が受け取られることが多い現代において、「見る人が考えたくなったり、知りたくなるデザインとは何か」という問いを持ち、情報を文脈化し能動的な思考を促すことをテーマにデザインを実践されています。

講義2

中野さんがこれまで手がけられてきた「情報の視覚化」の様々な事例を通して、思考を促すデザインの可能性とその本質が語られました。後半で紹介された総合ディレクターとして携わった『印刷博物館』のリニューアルプロジェクトでは、ロゴの刷新、展示空間、ピクトグラムの開発など、膨大な数のデザインを担当された中野さん。「統一した概念のもとで進めなければコンセプトが破綻してしまうのですが、その統合が非常に困難でした。」デザインに着手する前に、思考を言葉に変換、グリッドやレイヤーといった”造形言語”へと置き換えることで、全体に一貫した秩序を与えていったと話します。

講義3

その中でも展示内容を構築していくプロセスについては、10名の学芸員の方々との共同作業もあったといいます。そこで中野さんが作成したのが、「空間の文法集」と「ヒアリングシート」です。「博物館で人々に物を見せるにあたり、“光らせる、寝かせる、並べる、奥行きをつくる”などの空間の見せ方の参考写真を集めて文法集を作成しました。また、印刷博物館に収蔵されている資料を年代ごとに一枚のシートへ整理したヒアリングシートもつくりました。」

講義4

空間の文法集とヒアリングシートが学芸員の方々に共有されることにより、双方の考えをすり合わせる共通基盤として機能。またそのプロセスから、来館者に伝えるべきことが一つの思考としてまとまっていったと言います。ここまでのお話の中で、形に至る前の思考や言語化の段階にプロセスを設計し、複雑な事象から関係性や構造を見出して形に落とし込む中野さんの仕事術を垣間見ることができました。

第2部:ワークショップ 「インフォグラフィックスで自分の人生を描く・語る」

ワークショップ1

今回のワークショップは、「インフォグラフィックスで自分の人生を描く・語る」というテーマのもと、自身の人生を可視化する課題です。自分の人生を語る上で重要だと思うキーワードを5つ挙げ、それらについて時間と感情を軸にグラフで表現します。「それぞれのキーワードについて感情が燃え盛っていた時期とそうでもない時期があると思います。それらが比例したり反比例していることを視覚化し、グラフを用いてご自身のことをプレゼンテーションしてください。」と中野さん。

ワークショップ2

ある学生は、5つのキーワードの中に「グミ」と「体重」を採用。グミの起伏は、実家暮らしか一人暮らしかという“家族の監視の目”の有無によって現れ、体重とはあまり相関がないことに意外性を感じたと発表しました。また別の学生は、人との出会いや挫折した出来事によってグラフの変動が大きいことが見られ、そこから自分に不足している事象を認識したと話しました。グラフからは各々異なる特徴が読み取れ、本人も自覚していなかった物事の関連性を発見している学生も多くいました。

ワークショップ3

「多様なバックグラウンドを持つ人が集まるTDPだからこそ、このワークショップは盛り上がり、成立する」と中野さん。「グラフを見ると意外と話題がたくさん出てくることに気づいたのではないでしょうか。聞く側も、目に見える形と一緒に語られると理解しやすかったと思います。それはつまり、情報を形にして、形からさらに語りを加えることで、意味がどんどん深まっていくということです。素朴な線でも、時間軸と感情の起伏というスケールがあることで自分の想いや背景を、こうも豊かに語れることを感じられたのではないでしょうか。」

総評

最後に中野さんから総評をいただきました。「上手い下手に関係なく、形を通して情報を伝え合うこと、それ自体がデザインの原点だと思います。規模が大きくなると高度な技術も求められますが、素朴に描き、素朴に語り合うことからデザインは始まります。その原点を忘れず、今回の学びをデザインの上達に活かしてほしいです。」情報を形にする面白さやプロセス設計の重要性など、新たな視点に気づかされる講義となりました。中野さん、今回も貴重なお話をありがとうございました。