PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「思考の生成力~グラフィックデザインの役割と可能性について~」

中野デザイン事務所代表/アートディレクター

中野 豪雄 氏Takeo Nakano

PROFILE
大学在学中、身体性に深く関わる書物の構造に惹かれ、製本、印刷、タイポグラフィなど、書物形成における理論と実践を学び、卒業制作にて書物の歴史的変遷と分布の視覚化を研究する。現在、株式会社中野デザイン事務所代表。主な仕事に「世界を変えるデザイン展」「DOMA秋岡芳夫展」「more trees展」「コニカミノルタプラネタリウム天空のデザイン」等がある。日本タイポグラフィ年鑑グランプリ受賞。世界ポスタートリエンナーレトヤマ、ラハティ国際ポスタービエンナーレ、中国国際ポスタービエンナーレ、JAGDA年鑑、日本タイポグラフィ年鑑、TDC年鑑入選。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「思考の生成力」

講義1

今回は中野デザイン事務所代表の中野豪雄さんにお越しいただきました。中野さんは2回目の登場となります。アートディレクターとして展示会広告、ブックデザイン、空間デザインまで幅広くご活躍される中野さん。そのお仕事の軸はグラフィックデザインを基点とした「編集(情報を集めて編んでいくこと)」とのこと。デザイナーをやってきた15 年間に、“ グラフィックスの役割と可能性について” ご自身の考えがハッキリした仕事があったとおっしゃいます。今回はその2つのお仕事について詳しくお話を伺いました。

講義2

1つ目は「建築雑誌(2012-13年)」です。中野さんは東日本大震災の翌年から2年間、全24冊の表紙を、災害をテーマにしたインフォグラフィックスで作り上げました。講義では2012年2月号の表紙を取り上げ、3つの情報が1つに重なることで様々な情報の読み解き方が出来る事を説明していただきました。視点を変えるだけで、物事が違った表情を見せる。情報をただ受動するだけではなく、少し能動的に考えることで「当たり前の事など何も無いとわかる」とおっしゃいます。

講義3

2つ目は「世界を変えるデザイン展(2010年)」。世界の様々な“ 曖昧な” 社会問題をインフォグラフィックスで視覚化し、会場の入口12m に渡り展示されたそうです。講義では、展示品100点を分析し、8つのカテゴリー別インフォグラフィックスを作っていく過程を解説していただきました。また、展示会場で多くの方々が興味深く見ている様子を目の当たりにして、とても自信に繋がったとおっしゃいます。この作品で、情報の多い複雑なグラフィックでも、ちゃんと整理して見せられれば見る人はしっかり読み解いてくれると、ハッキリとわかったとのこと。

講義4

「分かりやすい事が本当に良いのか?」と疑問を持ち、見る側に考える余地を残す事を大事にしている中野さん。グラフィックを単なる伝達物としてではなく、見る側に能動的に思考させる「思考の生成力」につながる事を目標にしているとおっしゃいます。「インフォグラフィックスは目に見えない情報を可視化する事であり、様々な読み取りに開かれたグラフィックスである。また、情報を文脈化し、価値を持たせることで能動的な思考を生む事がグラフィックデザインの役割だと思う」と、教えていただきました。

第2部:ワークショップ「デヴィット• ホックニーの作品を例にしたフォトコラージュ」

ワークショップ1

今回は「デヴィット・ホックニーのアートワーク」をモデルにしたフォトコラージュを行い、物事を多視点に捉える事に挑戦します。事前に、各自がテーマに沿った空間を30枚前後の写真に収め、それを一枚に貼り合わせるという課題を行いました。当日5 ~ 6人のグループに分け、それぞれ自分の作品を見せ合い、その解説と“ 読み解き方” を話し合いました。選んだテーマや写真の貼付け方、一枚一枚の内容までそれぞれの個性が宿ります。制作の意図とは少し異なった結果や、偶然撮れた写真が面白い効果を生んだりと、30分の見せ合い時間はあっという間に過ぎてしまいました。

ワークショップ2

その後、分かれたグループ内から1人ずつ発表し、中野さんから講評をいただきました。“内側” というテーマから、ペンギンの水槽を上部から撮影した作品に対しては、「水中から写真を撮ったり、水面から写真を撮ってみても面白いかも」と、内と外の関係性を表現するアイデアを次々といただきました。また、同一人物が、何枚かの写真に写っているのを見て、時間の経過が視覚化されている事も面白いとおっしゃいます。

ワークショップ3

光をテーマに公園を撮影した作品では、1日の太陽の光の加減で、植物の見え方が変わっていく様子がはっきりと写し出されており、たった数時間でも表情を変える景色が印象的でした。「これを春夏秋冬で、同じ時間に、同じ目線で撮ってみると、もっと表情が変わって面白いと思うよ」と中野さん。以前、小学校のパンフレットを制作する時に、同じ校庭で遊ぶ小学生を撮影しても、春と冬では子供の表情がまったく変わって見えたとの実体験を語って下さいました。中野さんに講評していただくことで、作品に色や厚みが足されてくるのがとても興味深いです。

総評

最後に「誰もが良しとする事だけを学ぶのではなく、自分が良いと思うもの、自分にしか出来ない事、自分だけの特殊解を持ち、それを徹底的に突き詰める事がデザイナーに必要だと思う」とおっしゃる中野さん。「一般解をそのまま信じるのが一番つまらない。勿論セオリーは大事だけど、そこに自分らしさを上乗せする事がデザイナーとして生きていく上でとても重要だと思う。僕のレクチャーやワークショップを受けて、悶々とすると思います。みなさん、是非悶々として下さい!」と締めくくりをいただきました。