PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「ローカル、コミュニティ、カルチャー」

オギャー株式会社代表/クリエイティブディレクター/アートディレクター

佐藤 孝好 氏Takayoshi Sato

PROFILE
1979年千葉県生まれ。横浜育ち。渋谷在住。広告制作会社、総合広告代理店、クリエイティブエージェンシーを経て独立。大企業のマス広告から新規ブランド立ち上げ、超ローカル企業のブランド開発までミクロとマクロを縦横無尽に横断しながら社会をよりよくするための新しいコミュニケーションを模索中。広告やプロモーション企画、グラフィックデザイン、映像企画/ディレクション、CI、VI、空間デザイン、エディトリアルデザイン、パッケージデザイン、WEBデザインなどメディアにとらわれず活動中。

第1部:講義「ローカル、コミュニティ、カルチャー」

講義1

本日の講師は3年ぶり5回目のご登壇となる、オギャー株式会社代表 クリエイティブディレクター/アートディレクターの佐藤孝好さんです。佐藤さんは独立当初から「よりブランドに近いところでものづくりをしていく」「産んで育てて共に生きる」という考え方でクリエイティブを手掛けられています。その背景に、広告代理店や制作会社時代にマス商品の広告に携わる中で、資本主義の流れの中にあるクリエイティブ製作に疑問を持ったことが影響していると話されます。

講義2

本日のテーマ「ローカル、コミュニティ、カルチャー」は、佐藤さんがご自身の仕事における考え方とリンクしているキーワードだといいます。東京クリエイティブサロン原宿エリアのビジュアルを担当した際、原宿の交差点がアメリカ文化の流入や裏原文化の誕生など多様な文化の交差と積み重ねで生まれた場所であることを意識してビジュアルを作成されたと佐藤さん。他にも原宿キッチン&テラスのロゴ制作では、飲食スペースであることを表す「食べる口」と、そこで生まれるコミュニケーションをイメージした「喋る口」を組み合わせた口のマークを原宿のルーツであるアメリカンカルチャーのテイストで表現されました。

講義3

地域における仕事には「暮らし」と「観光」の二つの側面があるとおっしゃる佐藤さん。ご自身は都会育ちで田舎を持たないため、地域の暮らしの本質的な理解は難しいと感じているそうですが、あえてよそ者の「観光」という視点で、その地域のまだ伝えられていない素晴らしい魅力を伝えたいという使命感を持って取り組まれていると話します。「しかし、本質から外れた瞬間的な話題作りだけでは現地の方々の幸せ結びつかないため、クリエイティブを地域で持続可能な資産にするということを常に心掛けています。」

講義4

ここで紹介してくださったのは、人口あたりのスナック数が日本一だという宮崎県のスナック街、西橘通りのお仕事です。外から中が見えないスナックに、観光客が入りづらいと感じている方が多いという状況を打開するため作られた、お客様の希望を聞いて適切なスナックに案内するスナック『スナック入り口』のクリエイティブを担当しました。さらにコロナ禍で多くのスナックが閉店したことから、夜の街を応援する『スナックプライド』というプロジェクトの立ち上げや、オンラインでスナックとの出会いを創出するWebサイト『スナックアドバイザー』も製作され、これらの取り組みはそれぞれグッドデザイン賞を受賞されています。

講義5

淡路島の『おっタマげ!淡路島』では、さらに興味深い逆転の発想が見られます。淡路島は玉ねぎの産地として有名ですが、「玉ねぎ以外のものが知られていない」という悩みを抱えていました。しかし佐藤さんは「玉ねぎしか知られていないということは、外から見れば世界一玉ねぎを愛している地域だと言える」という面白い逆転の差別化で、『おっタマげ!淡路島』を企画。生玉ねぎがそのまま景品となる『たまねぎキャッチャー』や絶景の丘に巨大な玉ねぎオブジェ『おっ玉葱』などが生まれました。ニュースメディアやSNSで取り上げられ続けるお化けコンテンツに成長したそうです。

第2部:ワークショップ「地元の観光企画を考えてみよう」

ワークショップ1

後半のワークショップでは、学生一人ひとりが故郷に思いを馳せる課題を行います。故郷の良いところと悪いところを思いつくままに書き出し、それらを組み合わせてオリジナルの魅力をアピールする企画を考えます。「悪いところを書き出すことはネガティブなイメージがあるかもしれませんが、デメリットも個性として長所に変換したり、解決すべき課題の発見をするヒントになるかもしれません。好き嫌いも含めて全てアウトプットしてその土地の特徴をいちど俯瞰して企画することが大切です。」と佐藤さん。

ワークショップ2

学生たちの発表を紹介します。鎌倉市出身の学生は、ガイドブックに載っていない「地元の人のおすすめ」を巡るスタンプラリーを提案。佐藤さんからは「地元の人のおすすめが、意外とどの地域にもあるようなおしゃれカフェだったりして、観光客が本当に行きたいところが提案できるかという課題もありますが、御朱印帳のような仕組みは面白いです」と評価をいただきました。他にも、富山県魚津市でのガラス工芸体験や、巣鴨地蔵商店街での「おばあちゃんの落ち着く匂いグランプリ」など、ユニークな企画が発表されました。

総評

最後に総評をいただきます。「皆さんはこれからいろいろなクリエイティブの仕事に携わっていくと思います。その時に、どこでどう育ったかという自分のアイデンティティによって、人と全然違う視点を持っていたり、人が知らないことを知っていたりすることがあると思います。武器は外から拾ってくるよりも、自分の内側から見つけた方が強いと思うので、それを大事にしてほしいです。またAIのようなツールも進化していますが、人間が何かを叶えたいという気持ちを持ち、それを社会に実装していくのがクリエイティブの本質だと思うので、手法は常に柔軟に考え、時代の変化を楽しみながら新しいことに挑戦していってください。」