PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「観光をアップデートするデザイン」

オギャー株式会社代表/クリエイティブディレクター/アートディレクター

佐藤 孝好 氏Takayoshi Sato

PROFILE
1979年千葉県生まれ。横浜育ち。渋谷在住。広告制作会社、総合広告代理店、クリエイティブエージェンシーを経て独立。大企業のマス広告から新規ブランド立ち上げ、超ローカル企業のブランド開発までミクロとマクロを縦横無尽に横断しながら社会をよりよくするための新しいコミュニケーションを模索中。広告やプロモーション企画、グラフィックデザイン、映像企画/ディレクション、CI、VI、空間デザイン、エディトリアルデザイン、パッケージデザイン、WEBデザインなどメディアにとらわれず活動中。

第1部:講義「観光をアップデートするデザイン」

講義1

本日の講師はオギャー株式会社代表・クリエイティブディレクター/アートディレクターの佐藤孝好さん、4回目のご登壇です。社名「オギャー」は、ブランドを産んで育ててともに生きるという佐藤さんのスタンスを、産声に重ねて出来た名前だそうです。佐藤さんは商品や施設の広告やブランド開発を手掛けられながら、地域デザインの領域でも活躍されています。地域の隠れた魅力やローカル文化をフィーチャーする佐藤さんのクリエイティブはSNSでも数多く拡散され、地域のPRに大きく貢献しています。今回の授業では、観光をアップデートするデザインについてお話しいただきます。

講義2

佐藤さんは東日本大震災やその後の独立をきっかけに、地域にまつわる仕事を数多く担当されてきました。佐藤さん曰く、高度経済成長時代からの国内の人口減やインバウンドの急増などの急激な変化に、観光コンテンツの開発が間に合っていないという現状があるそうです。例えば、富裕層向け観光コンテンツや外国人観光客への現地でのインフォメーションの不足、また観光地の歴史の面白さを伝えるメディアがほとんど紙媒体しかないことなどが課題として挙げられます。日本は昔から一つの国として積み重ねてきた歴史の資産があるため、地域の魅力を活かした観光コンテンツの開発にはまだまだ多くのチャンスが残されているといいます。

講義3

佐藤さんが実際に担当したプロジェクト『オイスターアイランド九州』は、知る人ぞ知る九州の牡蠣や生産者の魅力を伝えるための企画です。実施した時期がコロナ禍だったこともあり、少人数でも利益をあげられる付加価値の高いコンテンツが必要とされました。そこで実装されたのが、牡蠣を世界一楽しむためのプレミアムツアーです。地域資源と牡蠣を掛け合わせた壮大な美食体験を提供するという内容ですが、実はツアーの内容の多くは現地の生産者の方が提案してくれたものだそう。「地域の外の人間だけでは、手垢のついた情報ばかりになってしまう。誰にも知られていない地域の魅力を掘り起こすためには、地域のキーマンの力が必要だと痛感しました。」

講義4

他にも『スナック入り口』『いくぜ 山代純愛組』や『おっタマげ!淡路島』など、地域のキーマンを巻き込んだPRキャンペーンは、現地で運用する人々の力も追い風となり、SNSを中心に全国で話題になっています。佐藤さん曰く、観光をアップデートするコツの1つは、客観的な視点で、他との差別化をする「よそ者視点」。当事者にはない大胆な視点は、一見無責任なようですがカスタマー目線のアイデアを生みます。2つ目のコツは「資産を作ること」。本質から外れた瞬間的な話題作りだけでは誰も幸せにできないため、地域で持続可能な資産にするということを常に心掛けているのだそうです。「どんなに話題になってメディア露出が増えても、その地域の魅力の本質とずれていたり、外部の人間が引き上げたら何も無くなってしまうような取り組みでは地域の資産にはなりません」と佐藤さんはおっしゃいます。

第2部:ワークショップ「地元の観光企画を考えてみよう」

ワークショップ1

後半はワークショップを行います。学生一人ひとりが、故郷に思いを馳せる課題です。良いところと悪いところを思いつくままに書き出し、それらを組み合わせてオリジナルの魅力をアピールする企画を考えます。悪いところを書き出すことはネガティブなイメージがあるかもしれませんが、デメリットも個性として長所に変換したり、解決すべき課題の発見をするヒントになるかもしれません。「淡路島の方から、玉ねぎ以外の魅力で地域をアピールしたいと頼まれた際は、逆に玉ねぎしかないという個性と、地元の方が気付かずに抱いている玉ねぎへの熱い想いを入り口にしましょうと提案しました」と佐藤さんの経験もお話ししていただきました。

ワークショップ2

学生たちの発表を紹介します。大船が地元だという学生は、大船観音から飛び出る『居酒屋ガチャ』を提案しました。ランダムで大船の居酒屋を案内することで、名所の少ない大船周辺のはしご酒をアクティビティとして提案するアイデアです。「やる側が考えなくても済むのはすごくいいです。お店が当たりでもはずれでも誰のせいにもならないし、楽しいですよね」と佐藤さん。墨田区小村井出身の学生は、『来ないで探さないで』と隠し続けるスタンスの企画を発表しました。これには、「駅看板だけ撮って帰ってしまうかも。面白い名前なのでおむらいスみたいな名物を作ってもいいかもしれませんね」とアドバイスをいただきました。

ワークショップ3

「海はないけど、実は湘南ナンバーなんです」と紹介する伊勢原出身の学生は、古くからの観光名所がある一方で若者を集められていないという課題に対し『山の湘南』のキーワードや『山サーフィン(スケートボード)』の施設の企画を提案。「これ、実際に提案したほうがいいですよ。山の家、山サーファーのように、湘南の海文化を山に変換するのはいくらでもできそうですね」と佐藤さんからも後押しがありました。他にも、学生の多い津田沼で学生時代を思い出して過ごしてもらうアイデアや、福岡の屋台文化をおしゃれなモーニングに変換するというようなユニークな企画が発表されました。

ワークショップ4

最後に総評をいただきます。「ワークショップでは短時間で面白い話が出てきて、全員の話が聞きたいくらいでした。国民全員がこれをやったら、面白いアイデアがたくさん出るんだろうなと思いました。皆さんはこれから、いろいろなクリエイティブの仕事に携わっていくと思います。その時に、どこでどう育ったかという自分のアイデンティティによって、人と全然違う視点を持っていたり、人が知らないことを知っていたりすることがあると思います。意外とそれらは見逃しがちですが、武器は外から拾ってくるよりも、自分の内側から見つけた方が強いと思うので、それを大事にしてほしいです。」佐藤さん、本日はありがとうございました。