PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「関係性を捉えるサーキュラーデザイン」 

サービスデザイナー/造形構想株式会社代表

峯村 昇吾 氏Shogo Minemura

PROFILE
サービスデザイナー。造形構想株式会社代表取締役。武蔵野美術大学大学院造形構想専攻修了。1982年東京都生まれ。青山学院大学卒業後、繊維専門商社を経て、FABRIC TOKYOに参画。クリエイティブ、サービスデザインにデザインに従事し、2020年に造形構想株式会社を設立。社会変革と持続可能性のためのサーキュラーデザインの研究と実践をしている。

第1部:講義「関係性を捉えるサーキュラーデザイン」

講義1

本日のプレックスプログラムは、サービスデザイナー/造形構想株式会社代表の峯村昇吾さんにお越しいただきました。峯村さんは「サーキュラーデザイン」をキーワードに、自身が生み出したモノがどのように循環しているかを紐解き、リサーチ・分析し「視覚化」する活動を行っています。サーキュラーデザインとは、環境配慮を前提に「大量生産・大量消費・大量廃棄」の考え方から循環型の設計にしていく考え方のこと。本日は未来におけるクリエイターのあり方についてお話しいただきます。

講義2

まずは峯村さんがサーキュラーデザインに辿り着いた経緯についてお話しいただきました。大学では経済学を学びながらサッカーに熱中されていたという峯村さん。デザインのバックグラウンドは全くないまま、商社に入社し営業を8年ほど経験されました。「生産と販売の間に立って、色んなことが見えてきました。自分の思い描いたレールから外れ、ベンチャー企業を経て2020年に武蔵野美術大学の大学院に入り直し、デザインやUX、サービスデザインなど、広義のデザインを学び直しました。そして今年の4月にサーキュラーデザインファームという形で独立し、今に至ります。」

講義3

なぜ今サーキュラーエコノミー(循環型経済)が求められているのでしょうか。産業革命以降、大量生産と大量消費を前提とする社会が形成されました。この時代、世界人口は約7億人でしたが、現在は80億人となり、その結果温暖化が進んでいると峯村さんはおっしゃいます。「経済成長にも限度があり、必要な部分を成長させてそれ以外の部分は成長させすぎないことが大切です。このサーキュラーエコノミーを話す時によく出てくるのが、『プラネタリーバウンダリー』という概念なのですが、これは地球1個分に収まる暮らしをしていくという考え方です。」

講義4

さらに解説は続きます。「製品単位で考えるのではなく、大きな視野で捉えてデザインの対象を広げていくことが求められます。例えば家電を見てみると、毎年のように省エネの新商品が発売されています。しかし実際は、エコな商品が出るたびにユーザーは消費し企業は生産し、消費と生産を加速させ、結果的に全体の総和は大きくなっています。そうならないためには、対象をシステムレベルで捉えることが重要です。」峯村さんは業界のビジネスモデルや流通を可視化した「サーキュラーダイアグラム」を作成し、実は廃棄するよりも生産するほうが環境負荷が高いことなどを理解する契機をつくっています。

第2部:ワークショップ「サーキュラーデザインへのアプローチ」

ワークショップ1

後半は、前半の講義で学んだ「サーキュラーデザイン」を踏まえたワークショップを行います。チームで自由にテーマを設定し、その生態系(そこに関係するモノや人・感情・組織)をチームで考え、全体の前で発表します。選んだテーマについて視野を広く捉え、その構造を自分たちで掴んでいくことが狙いです。テーマ決めから発表まで約1時間という時間の中で、学生たちは話し合った内容をオンラインホワイトボード「miro」にまとめながら議論を深めていきます。

ワークショップ2

1時間が経ち、チームごとの発表に移ります。最初に発表したチームは、「都内のシェアハウス」をテーマに選択。入居者側が何を求めシェアハウスを選ぶのか、また管理者側はなぜシェアハウスとして物件を貸し出すのかを可視化し、両者のメリットを解明しました。次のチームは「農業」に焦点を当て、野菜がどのように流通し、消費者の手に渡るのか、さらに食べ残し等の廃棄物はどのように処理していくのかや、労働者不足をどう解消していくのかなどをサーキュラーデザインとして可視化しました。峯村さんからは「このような大きな構造の産業を俯瞰して見れていてとても良いと思います」とコメントがありました。

ワークショップ3

次のチームは「アフリカの廃棄物」について発表しました。アフリカには東京ドーム32個分の処理場があり、先進国から電子機器廃棄物が毎年約25万トン送られています。その廃棄物を燃やし、中から金属を抽出しそれを売って生計を立てている人々もいるそうです。峯村さんからは「これは本当にグローバルサウスの問題で、Planet(地球環境)、Profit(利益)、People(人)の3つを元にした、ただゴミを減らすだけに留まらないシステミックチェンジが求められますね」とコメントをいただきました。

総評

最後に峯村さんより総評をいただきます。「いま世界は厄介な問題を抱えていると言われています。デジタル全盛時代でコミュニケーションが複雑になり、様々な要素が絡み合っていてシンプルな解決策がないという状況です。そこで大事になるのが、どんな人がいて、そこでどんな価値の交換がなされているのかの全体像を把握することです。誰かが喜べば誰かが傷つく、複雑なものに向き合っても安易に答えは出ない。そのちょっとした怖さだけでも知ってもらえたらなと思います。」峯村さん、本日はありがとうございました。