PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「空想地図からはじまる仕事」 

地理人

今和泉 隆行 氏Takayuki Imaizumi

PROFILE
7歳の頃から空想地図(実在しない都市の地図)を描く空想地図作家。大学生時代に47都道府県300都市を回って全国の土地勘をつけ、地図デザイン、テレビドラマの地理監修・地図制作にも携わる他、地図を通じた人の営みを読み解き、新たな都市の見方、伝え方作りを実践している。空想地図は現代美術作品として、各地の美術館にも出展。青森県立美術館、島根県立石見美術館、静岡県立美術館「めがねと旅する美術展」(2018年)、東京都現代美術館「ひろがる地図」(2019年)。鹿児島市立美術館「フロム・ジ・エッジ from the edge ―80年代鹿児島生まれの作家たち」(2021年)。主な著書に「みんなの空想地図」(2013年)、「『地図感覚』から都市を読み解く—新しい地図の読み方」(2019年)、「どんなに方向オンチでも地図が読めるようになる本」(2019年)、「考えると楽しい地図」(2022年)、「空想地図帳」(2023年)。日曜劇場「VIVANT」、土曜ドラマ64(ロクヨン)でも劇中の地図制作に関わる。

第1部:講義「空想地図からはじまる仕事」

講義1

本日のプレックスプログラムは、今和泉隆行さんをお迎えします。今和泉さんは地理人として、実在しない都市の地図「空想地図」の作成を行っています。その空想地図は、美術館での展示やテレビドラマの小道具などでも使用され、最近では日曜劇場「VIVANT」でも今和泉さんの地図が登場しました。その他にも、実在の三浦半島の江ノ電バス路線図やグッズデザインを手掛けるなど、「地図」と「デザイン」を武器に活躍されています。幼少期にお父様とバスに乗りながら見ていた景色が原風景だとおっしゃる今和泉さんに、地理人として活躍するに至った経緯やデザインキャリアについてお話を伺います。

講義2

7歳の頃から空想地図を描き続け、大学生時代には47都道府県300都市を回って全国の土地勘をつけていたという今和泉さん。しかしキャリアに悩み、デザインを学んでいた時期もあるとおっしゃいます。「自分より遥かにデザインができる人たちを目の当たりにして、自分のストロングポイントであった地図を起点にキャリアを見直しました。その時は大きな事業やプロフェッショナルとして何かをしようというより、誰もやっていない領域を打ち立てようと考えました。」空想地図という独自のクリエイティブを起点に、地図制作アドバイザー、書籍執筆、美術展でのアート展示など多様な形態の仕事をこなし、その結果空想地図作家として活躍することになったそうです。

講義3

今和泉さんの空想地図は、架空の店のロゴデザインにいたるまで細かくデザインされているという特徴があります。「古い店や現代的なスーパーなど、その土地にありそうな商店を想像していく中で、この店の蛍光灯の色は恐らくこんな色だろうな、などとかなり詳細な部分まで設定しています。」さらに空想の路線バスやタウンガイド、物件の間取図や駅名標など、都市の細部(URBAN GEOFICTION)を作成して解像度を上げ、都市の全体像と都市の細部を行き来しながらより没入感のあるリアルな空想都市を形成しているといいます。

講義4

2017年に公立美術館で空想地図が展示された際は、自分は何者なのかと改めて見つめなおす契機となったそうです。その後もアート作品を制作され、ついには東京都現代美術館に展示するまでとなりました。「中途半端な凹凸を活かして地理人は出来上がったと思います。空想地図作家は他にも何人もいるし地図に関してNo.1になれるわけではないが、地図関係者はデザインとコミュニケーションに強い人が少ない。だから自分の中にある得意なものを組み合わせるとオンリーワンになれると感じました。」

第2部:ワークショップ「空想地図を作成しよう!」

ワークショップ1

後半のワークショップでは、今和泉さん自身が作成した空想地図キットを使用し、学生たちが空想地図を制作していきます。「市街地」「住宅地A」「住宅地B」「農地」「山林」「建物」等のパーツをを台紙に貼り、灰色のテープやサインペンで道路を描きより詳細な地図に仕上げていきます。学生たちはどんな発想で空想地図を作るのでしょうか。

ワークショップ2

学生たちが思い思いに制作した空想地図が完成し、今和泉さんから講評をいただきます。まず一つ目の地図のテーマは「引退した時に住みたい街」。海に面した街で、南には離島があるリゾート地です。内陸部には住宅地を設置し、その中央に大きなスタジアムが建設されています。週末はスポーツや祭りなどで住民同士の交流に使用するという想定です。今和泉さんからは「住宅地の中にスタジアムがあると騒音が問題になるかも」と現実的なコメントをいただきました。

ワークショップ3

次に紹介する空想地図は、天空の城ラピュタをモチーフにした「水の力で浮く天空都市」です。湖の中央に城があり、湖を囲むように都市が発展。都市間は電車で移動ができ、城への道も3本通っています。そしてその都市の周りには中央の湖の力に肖って浮かぶ小島があります。今和泉さんからは「まるで修行僧が修行するために存在する島のように俗世間から離れた印象を得ました。水の力を感じられて、とてもコンセプチュアルで綺麗ですね」とコメントをいただきました。

総評

最後に今和泉さんから講評をいただきます。 「全員の作風の違いもさることながら、偶発性に委ねて風景を浮かべていくか、よりコンセプチュアルにストーリーを詰めていくかのプロセスの違いが面白かったです。正解がないものですから、潜在的に自分の何かを表現していたり、他の人は違う感覚に気づけることもあるかと思います。もしもその感覚に気づけたのなら、それを先鋭化し最大化することができると思います。今回の私のキャリア形成の話を参考にしていただけるなら、それも良し。反面教師にするのも良しということで、今日はありがとうございました。」