PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「心と仕事をデザインする」

和菓子作家

坂本 紫穗 氏Shiho Sakamoto

PROFILE
オーダーメードの和菓子を作品として制作・監修。日本国内および海外で和菓子教室やワークショップ・展示・レシピの開発を行う。「印象を和菓子に」をコンセプトに、日々のあらゆる印象を和菓子で表現し続ける。2014年映画『利休にたずねよ』公開記念、公式タイアップ茶会にて和菓子監修。 2016年ミラノ・サローネ、サンワカンパニー社の展示ブースにて和菓子のデモンストレーションを行う。2017年New York, Food Film Festival 2017にて和菓子制作映像『WAGASHI』がBEST FOOD PORN AWARDを受賞。2019年創作和菓子の宗家 源 吉兆庵よりコラボレーション和菓子をシリーズで発売。2021年Louis VuittonのVIPイベントにて和菓子制作。2021年毎日放送『情熱大陸』出演。

第1部:講義「心と仕事をデザインする」

講義1

本日のプレックスプログラムの講師は、和菓子作家の紫をん 坂本紫穗さんをお呼びしています。坂本さんは「印象を和菓子に」をコンセプトに、日々の儚さや懐かしさを感じる和菓子を創作されています。その他にも、商品の企画監修やレッスン、イベント登壇なども行い、実店舗を持たない活動の仕方が特徴的です。宗家源吉兆庵とのコラボレーション商品をはじめ、雑誌の特集やテレビ番組のご出演など、多様な経路で多くの人に和菓子の魅力を伝えています。本日は坂本さんの人生を振り返りながら、和菓子に対する思いや和菓子作家としての道しるべになったことについてお話ししていただきます。

講義2

「印象を和菓子に」というコンセプトについて説明していただきました。この言葉は、坂本さんがどんな和菓子を作りたいかを考えた時に、当然のように浮かんできたものだそうです。坂本さんが大事にしているのは、季節やお花などを通して自身の心に浮かんだ風景を表現すること。リアルで具象的な作風よりも、抽象性が高く作り手の感性を大きく反映した表現に惹かれるのだといいます。「和菓子に思いや記憶が宿っていると、食べる人は作り手はこういう景色を表現したかったんじゃないかなと汲み取ろうとしてくれます。単純に姿が似ただけのお菓子よりも、期待以上の、期待とずれるような幅があったほうが、和菓子としては楽しい存在になると思います。」

講義3

自分の質に合う仕事とそのやり方を見つけ出すことが重要だと坂本さんは話されます。質は気質や好みのことで、抗うことのできない強烈な要素です。自分の質に合うことを実践するのは強く幸せなことで、自身は努力が楽しく、周りの人も幸せにする可能性を秘めています。生まれもったものや経験から坂本さんの「好き」を分析すると、食べ物、小さいもの、抽象性、風情、優しさ……。その全て中心にあるものが和菓子でした。また、学校や社会人生活で感じた違和感も、自分に合った仕事のやり方を組み立てる上で大事なヒントになったそうです。和菓子というぴったりのテーマに、坂本さんらしいチャレンジ・独立心・個性を加えた仕事が和菓子作家です。

講義4

和菓子作家としての駆け出しの時期に、意識して行っていたことを教えていただきました。まずは名刺や屋号を作り、自身で責任をとるために和菓子作家と名乗ることが重要だと考えたそうです。「紫をん」という屋号はおばあさまの好きなさりげない花から決めたのだとか。次に、たくさんの和菓子を分析することで、理想のレシピを作ることと実現したい和菓子を言語化すること。そして、つかんだチャンスを200%の気持ちで返すこと。和菓子作家としての実績を形にするためには、人の倍は時間を投資する必要があります。努力と消耗の孤独な期間ですが、200%の気持ちを見てくれたお客さんが喜んでくれたり、ファンが増えたりという形で良い循環が回っていくそうです。

第2部:「オリジナルの和菓子をデザインしよう」

ワークショップ1

後半はワークショップを行います。テーマは「オリジナルの和菓子をデザインしよう!」です。海外から初めて日本に来る旅行客に向けて、機内食のデザートとして出されるオリジナル和菓子の企画を考えます。和菓子のざっくりとした定義は、デザインや素材の両方において日本を感じる佇まいであることです。曖昧な定義をどう解釈して捉えるかが和菓子作家の仕事であり最大の課題だといいます。坂本さんからは「五感で楽しめて、余韻や余白感を意識するといい和菓子ができるのかな」とアドバイスをいただきました。学生たちは、海外旅行者と日本の初めてのタッチポイントになる和菓子を考えます。

ワークショップ2

学生たちのアイデアを紹介します。各グループの発表では四季のモチーフを楽しむ和菓子が多く見られました。まず発表されたのは、アイデアは四季ごとに違う季節のモチーフのお菓子を提供するアイデアです。半分に割るとその季節をイメージした色の餡が現れます。坂本さんは「季節の先取りを手前のところでしてあげて、和菓子の楽しみ方自体を伝えるイメージが湧きます」とコメント。また、4つのお菓子を一度に楽しめるアイデアもありました。ある植物の花から種までのうつろいを四季の変化と組み合わせて表現したり、それぞれの季節のモチーフをコーヒーにも合う材料にしたりと、同じ四季というキーワードでも様々なアイデアが発表されました。

ワークショップ3

和菓子で旅の安全を祈るアイデアもありました。渡り鳥のツバメをモチーフに、未来へ続く幸せの意味を持つ青海波の模様を敷いたお菓子です。素材は和菓子を食べ慣れない方のためにゼリーに似ている寒天を使用するなど細部まで思いが込められています。「季節がありつつも願いを込めるという点が和菓子作家的な発想ですね」と坂本さん。日本的なモチーフを一口サイズで楽しむ企画には、「ミニチュア感は海外の人が最近の日本に抱いているイメージと合っていると思います」とコメント。「和菓子は一瞬のものなので、直感的にどう伝えるかという視点で仕上げれば、どれも喜ばれる可能性が高いと思います」とワークショップの総括をいただきました。

総評

最後に坂本さんから総評をいただきます。「どんなに憧れても他人にはなれません。しかし自分の延長線上では無限に成長できると思います。今日のお話のどこかにぴんと来た人は自分の人生をゆっくりと振り返ってみてください。経験や感性は、自分を構成するパズルのピースで、どう組み合わせるかで人生が変わってくるし、自由度も上がると思います。みなさんらしい人生の絵を自由に描いてください」。当校修了生で、坂本さんのマネジメントを行う(株)無茶苦茶の宇野景太さんからも、在学中にデザインと自分の関係を考え直して、進路の方向転換をしたエピソードとともに「違和感を大事にしてほしい」というメッセージをいただきました。坂本さん、宇野さん、本日はありがとうございました。