PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「家紋とデザインⅡ」

株式会社京源/紋章上繪師

波戸場 承龍/波戸場 耀次 氏Shoryu Hatoba/Yohji Hatoba

PROFILE
紋章上繪師三代目・四代目。家紋を専門に墨と筆で描く職人として技術を継承し、2010年に工房「誂処京源」を構え「デザインとしての家紋」をコンセプトにIllustratorで家紋をデザインする事業を開始。商業施設や企業の紋意匠、個人の為の家紋を新たにデザインする他、様々なジャンルの企業と組み、家紋とプロダクトの新しい形を提案している。着物のデザイナーとしての一面も持ち、2014年からUNITED ARROWSより男着物のフォーマルウェア「京源の男着物」をプロデュース。日本文化の中で長い年月をかけて育まれてきた家紋文化を次世代に繋げる担い手として、様々なイベントや講演に参加するなど活動は多岐に渡る。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「家紋とデザイン」

講義1

本日のプレックスプログラムは、今回で3回目のご登壇となる紋章上繪師の波戸場承龍さん、耀次さんをお迎えしてお送りします。紋章上繪師とは、着物に”家紋”を描く職業です。現代では日常で”家紋”を見る機会はあまりなく、どこか”古い”もののイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし実際は”家紋”とは、とびきり自由で、クリエイティブなものなのです。本日は家紋のプロフェッショナル・紋章上繪師であるお二人が、現代に合わせてアップデートを行ってきた家紋の世界をご紹介いただきます。それでは承龍さん、耀次さん、よろしくお願いします。

講義2

実は”家紋”は法では管理されておらず、自由に創って掲げることができるため誰でも気軽にデザインができる、伝統深い中でも非常にクリエイティビティ豊富な文化です。紋章上繪師であるお二人が家紋のデザインを行うようになったきっかけは、印刷紋が主流になったこと。出回っている家紋を見てもあまり格好いいと思わなくなり、だったら自分でデザインをしようと考えたそうです。早速企業からロゴデザインを受注しましたが、提出データの形式にIllustratorファイルを指定され、経験のないIllustratorを初めて導入したのだそうです。そこから、Illustratorを使用した新たな家紋のデザインが始まりました。

講義3

「ART AQUARIUM」や「COREDO室町」など、人の目に触れる家紋を多く創ってきたお二人ですが、その中でも特に注目されているのが、「デザインあ」やファッションデザイナー山本耀司氏とのコラボに用いられた”正円と直線のみで描き、作図に使用した円の軌跡を残した紋”です。元々は承龍さんがIllustratorのベジェ曲線をうまく扱えず、手描きの技法と同じように正円を作図に用いたことから始まり、それを逆手にとってデザインに落とし込んだ結果生み出されました。「デザインあ」では人気コーナーになり当初3作品放映の予定だったところ、現在までに23作品が放映されています。

講義4

では、日本の家紋と西洋の紋章とはどう違うのでしょうか?例えば鷹だと、日本の「鷹の羽」の家紋は、鷹の羽を2枚重ねただけのシンプルなものです。それに比べ西洋の鷹の紋章はリアルに鷹を描いています。一番の違いは、紋章の中には血筋や系統等の情報が詰まっている一方で、家紋には明確な意味はありませんが、その家紋を使うと決めた家々の思いが込められていることです。家紋と紋章という形で見ると、ただの比較に見えますが、家紋には建築・芸術・舞台等と同様、文化的な違いや色々な要素を絡めながら、日本人が好む形や要素が反映されているのだと言います。

第2部:ワークショップ「紋切り遊び」

ワークショップ1

後半はワークショップを行います。今回は、「紋切形」をタイムアタック形式で行います。「紋切形」とは江戸時代に流行した紙切り遊びです。紋章上繪師は、生地を染める前に紋の部分が染まらないよう糊を置くための型、「糊型」を使います。その糊型の作り方から生まれた遊びで、紙を何度も折ってから切ることで少ない切り数で対称図形を作ることができます。学生たちには配られたハサミと折り紙で、お試しとして星形を切ってもらいます。制限時間は1分、折り方・切り方は各自工夫を凝らして挑戦します。制限時間が終わり、結果としては折り方がなかなか難しいようです。ここから正しい折り方を教わっていきましょう。

ワークショップ2

今回は2つの折り方を教わります。まずは先ほどの星形も作れる「五つ折」です。複雑な折り方の解説をしていただき、頂点が36度の三角形が10枚重なるような形に折れました。そこへ配られた型紙を貼り付け、型紙に合わせて切る事で、なんと1回直線にハサミを入れるだけで綺麗な星形が出来上がりました。次に3当分又は6当分の図形が作れる「3つ折」です。五つ折よりさらに複雑で、とても数学的な考え方で折られているようです。こちらは頂点が60度の三角形が6枚重ねになる形に折れました。それでは折り方がわかったところで、最後に課題の紋を制作していきます。

ワークショップ3

課題としては(1)五芒星、(2)桜・円・点線の円を組み合わせた紋、の2つの紋の全体像を見て、それぞれ5分で切り出してもらいます。「どういう幅でどうやって切ればいいのか頭をフル回転させて試していただきたいと思います」と耀次さん。制限時間が終わり学生たちの作品を見ると、かなり難しい課題でしたがしっかり完成している作品も多くありました。その中でも線の幅が整っていて、歪みが少ないものが特に高評価です。今回のワークショップで簡単に紋を作ることのできる遊び「紋切形」学ぶことができました。これを機に、自身のデザインに紋を取り入れるのもいいかもしれませんね。紋を身近に感じることができたワークショップでした。

総評

最後にお二人から総評です。承龍さん「短い時間ではありましたが、江戸の遊びを楽しんでいただけたでしょうか」耀次さん「僕らは紋章上繪師という着物に家紋を描く小さな職人から、Illustratorに出会ってそこから世界が広がり、今では自分たちが想像もしていなかったところまで、家紋っていうデザインを世に出させてもらえています。日本人のアイデンティティの中に、家紋のデザインっていうものはすごく入りやすいと僕らは思っていて、千年近く続いてきているデザインっていう、デザインのもとなので、今日を機会に皆さんにも興味を持っていただけたらなと思っております」承龍さん、耀次さん、ありがとうございました!