PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「グラフィックデザインについて」

グラフィックデザイナー

稲葉 英樹 氏Hideki Inaba

PROFILE
大学理工学部卒業後、1997年よりグラフィックデザイナーとして活動をはじめ、雑誌「+81」「SAL magazine」などを手掛け「Graphic DesignNow」(タッシェン)のカバーに選出されるなど、その革新的なグラフィックで一躍注目を浴びる。 2004年にグラフィックアートシリーズ「NEWLINE」を発表。以後、パリ・ルーブル美術館、アーツ千代田3331、マレーシア国立美術館、国立新美術館などに出展。三菱地所アルティアム「9010稲葉英樹」展、+81ギャラリー「+81 3331 9010」展を開催。2011年に文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出され、パリ・ポンピドゥーセンターに招聘、作品展示・講演を行った。 アニエス ベーやシュウ ウエムラとのコラボレーション、2011年よりエスパス ルイ・ヴィトン東京の為のグラフィックなども手掛けている。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「グラフィックデザインについて」

講義1

今回のプレックスプログラムは、グラフィックデザイナーの稲葉英樹さんをお迎えして行いました。まずは稲葉さんの自己紹介も含めてこれまで手掛けられた作品を解説していただきます。大学では機械工学を学び、その後一般企業に勤めながらロゴ制作などを始めたのがきっかけとなり、グラフィックデザイナーとしてのキャリアをスタートさせた稲葉さん。デザインに関わるバックグラウンドや特定の師匠を持たなかったことが、今でも試行錯誤を重ねながら表現を追究する姿勢の源流にあるようです。当時誰もやっていないようなデザイン表現をしていた為、クライアントや印刷会社にすんなり伝わらないことも多かったとのこと。

講義2

そんな中で“伝達スピード”の速いグラフィックに興味を持つようになった稲葉さんは、2004年頃よりグラフィックアートを研究する為のプロジェクトを始動。言語や文字に対する苦手意識を逆手に取った新たな表現や、即興でのグラフィック表現、細かい要素の集合体としてのグラフィックなど、様々な作品を発表してきました。これらの作品の根幹には「プリミティブ(=基礎構造的)」なものへの関心が強くあったそうです。こうした活動を発表していく中で様々な所から反響があり、shuuemuraとの初のアーティストコラボレーションも行いました。色の監修や、世界中で同じ品質の印刷を行う為の工夫など、初めてのことだらけの中でも新たな可能性の追究やクオリティへの強いこだわりがうかがえます。

講義3

経済産業省とのお仕事では日本の印刷技術の高さを活かし、粗雑な紙とモノトーン印刷を使いながらも環境負荷の少ない表現の可能性を示しました。自ら印刷機を動かしに地方へ赴くほどのこだわりっぷりは流石です。今でもクライアントワークの合間を縫って研究を続ける稲葉さんが現在目を向けているのは、人のコミュニケーションについて。

講義4

音→言葉→文字(紙→データ)と媒体を変えてゆく人のコミュニケーションが今後向かう先にあるのは「造形」や「色彩」なのではないか。そんな発想から研究を続ける「BurstHelvetica2」は生涯のテーマだそうです。また、LOUISVUITTONとのお仕事でも様々な実験的な印刷を行ったり、テキスト一文字ずつ全てに加工を加えるなど気の遠くなるような仕掛けを一つひとつの作品に与えています。

第2部:ワークショップ「自分のアイコンをつくる」

ワークショップ1

本日は「自分のアイコンをつくる」というお題です。ロゴマークがパッケージ的なものだけでなくソーシャルアイコン的なもの、よりパーソナルなものとしての役割を持つようになってきている中で、それぞれからどのような作品が生まれるのか稲葉さんも気になるようです。与えられた条件は「正方形の中に収まりやすいもの」。さて、どのような作品が出来上がるのでしょうか。

ワークショップ2

ここからは個人作業の時間です。キーワードを書き出していく人やラフスケッチを描く人、参考となるイメージをネットから探す人、いきなり本番で描き始める人など様々です。出来上がった作品は一度数人のグループで紹介し合った後、稲葉さんの元へ集められ、そこから気になった作品を選んでいただきます。

ワークショップ3

皆、自分の作品は選ばれるのかどうか?固唾を飲みながら稲葉さんを見つめています。12個の作品が選ばれ講評の時間に入ります。裏面に描いたアイデアの経過が良いとか、逆に一発狙い撃ち感が良いなどバラエティに富んだチョイスとコメントをいただきました。皆が前半観た稲葉さんの作風に引っ張られている中、全く影響されずに作っている点や作品から読み取れる観察力の高さなど評価のポイントも様々でした。

総評

「自分はまだまだデザインが上手くならないと。」と、ご謙遜気味に前置きしながらも、いろんな技術が取り巻く中で様々な制限やクライアントの意見、知識の差などがあるけれども「基本的なコト」を忘れてはいけないとのこと。「一枚のヴィジュアルに様々な背景や時間が凝縮されているようなグラフィックを志して下さい。」とお言葉をいただきました。ソフトウェアやプログラミングを駆使した表現をしながらも、その先には人と人とのコミュニケーションが見据えられている稲葉さんのお話に教室中が聞き入りっぱなしの3時間でした。