PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「共感されるクリエィティブを生み出すには?」

ミュージシャン

伊藤 ゴロー 氏Goro Ito

PROFILE
作曲家、ボサノヴァ・ギタリスト、音楽プロデューサー。
布施尚美とのボサノヴァ・デュオ naomi & goro、ソロ・プロジェクト MOOSE HILL としても国内外でのアルバムリリース、コンサートを行う。原田知世、坂本龍一、細野晴臣、高橋幸宏らとの共演、映画・テレビドラマ・CM音楽も手がける。 、原田知世「music & me」「eyja」ボサノヴァの名盤「GETZ/GILBERTO」誕生から 50 年を記念したトリビュート盤「ゲッツ/ジルベルト + 50(2013 年ブラジルディスク大賞受賞)」ほか多数。 多摩美術大学での特別講義 「伊藤ゴロー『グラスハウスの音楽』―作曲、音響、演奏について」、原田知世『歌と朗読の会「on-doc.」』全国ツアー、多岐にわたる活動を展開している。 2013 年 3rd ソロ・アルバ「POSTLUDIUM」を発表。 2014 年 原田知世「noon moon」をプロデュース。全国ツアーにもバンマスとして参加。8 月 3 日にはブルーノート東京でジャケス・モレレンバウム、パウラ・モレレンバウム&伊藤ゴローコンサートを行う。

第1部:トークショー「共感されるクリエィティブを生み出すには?」

講義1

本日のプレックスプログラムは、国内外で活躍中のミュージシャン伊藤ゴローさんに行っていただきます。初のミュージシャンの登壇です。平川ナオミ学長と小・中学校の同級生ということで、今回の登壇が実現しました。ボサノバのギタリストと自己表現としての音楽のみならず、他のミュージシャンへの楽曲提供、コラボレーション等々、私たちで言うところの「アートとデザイン」の境界を行き来している伊藤さんから、創作の源泉やプロセスを伺います。

講義2

いつも作品を手がける際に使っている「音楽ノート」を掲げ、『これさえあれば僕は大丈夫。簡単に言えばネタ帳みたいなもので、いつも持ち歩いています。』と話す伊藤さん。自分と波長の合う音の響き(モチーフ)を思いついた時、いつか使えるかもしれないと書き留めるそうです。ここで、楽譜だけではわかりずらいでしょう、と急遽、生演奏をしていただきました。様々な情景を連想させる奥行きのある音色に、学生もうっとりです。

講義3

曲の作り方については、自分が気に入った響きを決まり事とし、そこから曲全体の発展を考えて行きます。『ただこれを弾きたい、その欲求だけ(頭だけではなく体的な欲求)。言葉だけではなく、純粋に音楽・音のことを考えて曲を作っています。自分の表現したいことはそんなに沢山なく、やりたいことは一つで、そのバリエーションしかないからです。』と話す伊藤さんは、まず音の形を作り、そこに色をつけてくそうです。

講義4

クライアントから依頼があった場合は、自分の曲の時とは全く違う作業で、別の脳を使って作ります。考えすぎると自分の世界に入ってしまうので、あまり考えず思いつきで3〜5分で一気に作ります。『頼まれてないのに自分がやりたいことをやるのは方向性が異なってしまうので、相手の思った通りのリクエストに応えるには瞬発力しかない。これは手を抜いてるわけではなく、良いものをつくるための手段です。昔はCM製作の現場で監督と衝突したりしましたが、自分の為の作品作りでは発見できなかった別の作り方を発見し、非常に勉強になりました。』 生演奏も交えた優雅な前半が終了です。

第2部:ワークショップ「音楽との共感覚トレーニング」

ワークショップ1

後半のワークショップのお題は「音楽との共感覚トレーニング」です。参加者は事前に配信された短い楽曲のDLデータから感じ取ったことを直感的・直観的・論理的要素を複合し、クリエィティブな方法でプレゼンします。まずは5〜6人のグループに分かれ、個々が作ってきた作品について説明をします。学生の多くは、まずは曲を聴いて直感的に感じたイメージを抱き、そこからタイトルを含め、伊藤さんやこの曲の背景にあるものまでをしっかりリサーチをしている印象を受けました。

ワークショップ2

懐かしさと嬉しさを森林の神秘的なイメージと合わせた人や、自分が持つ土臭い印象のボサノバよりもっと洗練された雰囲気を感じたことから、野蛮×スッキリしたイメージを画像にした人、曲から妄想を広げショートストーリーを作った人など、同じ曲でも個々の印象によって視覚化された作品からバリエーションが感じられました。各グループで一番良いもの、または推薦・自薦した作品を前に出て発表します。

ワークショップ3

発表した作品で多かったのはCDジャケット。無色透明というイメージから色のついた寒天ゼリーでイメージを作った人や、ドイツ語で“温室”を意味する曲のタイトルGLASHAUSから“美しい世界への憧れ”として、外の世界を想う室内の一輪の花という視点で窓を作った人。また、言葉ではない想い(物体のようなもの)が時間や場所を超えて飛んで行くイメージを表すため、女性が手紙を読んでいる姿をシリーズにしたブックレットなど。中には“ぶっちゃけ”というタイトルで曲をイメージ化した絵本もありました。発表された作品は個性的な他に、コンセプトやプレゼン行程がしっかりしていました。

総評

最後に伊藤さんから一言。『さすがに曲を聴いて曲を作ってくる人はいなかったですね(笑)音楽は一から作りますが、パッケージなどは色々なものを参考にするので、皆さんが作ってくれた物がすごく嬉しかったです。クリエイティブに携わる上でお題があって創作を始めると大体が手遅れ。仕事としてやろうとすると期限が既にあります。何に使うかわからないけど、色んな経験からデザインのソースをタンスにしまっておくと、お題が出た段階でいろんな引き出しから出してアレンジができるので良いですよ。』伊藤さん、本日はありがとうございました!
Text by 編集&ライティングコース修了生
矢田貝 恵