PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「はじめて考えるときのように」

建築家

谷尻 誠 氏Makoto Tanijiri

PROFILE
建築家。SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役。1974年 広島生まれ。2000年、建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE 設立。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける傍ら、穴吹デザイン専門学校特任講師、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授なども勤める。最近では、「BIRD BATH&KIOSK」の他、「社食堂」や「絶景不動産」「21世紀工務店」をはじめとする多分野で開業するなど、活動の幅も広がっている。2018年FRAMEから作品集出版。著書に『1000%の建築』、『談談妄想』がある。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「THINK そもそも、これってなんだろう?」

講義1

「どうでもいいことを深く考えることが好き」と開口一番に語ってくれた谷尻誠さんは、住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、アートのインスタレーションなど、仕事の範囲は多岐にわたる、注目の若手建築家の一人です。最近では、東京ミッドタウンで開催された「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2012」で、高さ約4メートル、直径約10メートルのスケールの巨大なジャングルジム、「MOUNTAIN GYM」を設計したことでも話題になりました。

講義2

今回のプレックスプログラムは、新たなデザインを創造する考え方について触れていきます。以下の話からスタートです。 「世の中にある全てのものには名前がついていて、機能を支配している。だからいったん名前を外して『これって何をするものだろう?』と常に考えてみよう。例えば、“コップ”。液体を注いで飲むことに使う道具だけど、名前をいったん取ってみると、金魚を飼う“水槽”になったり、花を挿せば“花瓶”になる。逆に、名前をつけることで用途を規定することができる」

講義3

続いては、谷尻さんが広島の事務所の上階に設けた様々な方をゲストにお呼びして繰り広げられる名前のない空間で行われるイベント『THINK』。人が集まってコーヒーを飲めばそこはカフェになり、展覧会をやればギャラリーになる。歌をうたえばライブスペースになる。何と何があれば機能として決定づけられるのか、空間を扱う建築家としての信念がそこにあるように思われます。

講義4

コンペは“考える筋トレ”だという。コンペでは、この建築物は何をするもので、どのような役割をはたすのか、抱えている問題は何なのか、もっとこうするべきではないかと考え抜き、その思いを建築意匠として提案する。審査員のウケを狙ったコンサバなプランにすれば容易く受注できるかもしれなかったが、信念を貫いた結果、幾度となく負けが続きました。それでも突き通した信念が、ようやく社会から評価されるようになってきたと言われます。

講義5

谷尻さんの“考える力”のルーツはどこからくるのか。それは幼少時代を過ごした長屋にあったといいます。 「お風呂は五右衛門風呂、雨が降れば傘をさして台所まで行かなければならなかったり、とても不便な家でした。現代は、より快適な暮らしを求めるが故に、その中で不便なことを発見してしまう。逆に、圧倒的に不便な環境であれば、どうやって便利になるか工夫するしかない。不便さはクリエイティブの起源じゃないかな」リモコン1つで何でも完了できる生活と対極にいたことが、当たり前を当たり前と思わない考え方を生んだようです。

第2部:ワークショップ「アイデアブレインストーミング」

ワークショップ1

ワークショップでは、谷尻さんが仕事でアイデア出しに煮詰まった時に実際に行っているブレインストーミングを5人グループで行いました。 まず、縦4列×横5列のマス目に、“自然”から連想されるものを縦1列描き、回していく。次にそれらから連想されるもの描く。一巡してみると“自然”とは一見、無関係なものが出ていても、紐解いていくとそこには関係性があったり、グループ内でも自分には思いつかなかった発想に触れることができたようです。

ワークショップ2

グループによっては“マザーテレサ”や“井上陽水”など、突拍子もない言葉が連想され、谷尻さんもそれぞれの意外性に興味深々でした。自分が描いた絵や言葉から意外なものに発展していることを知り、発想の無限性を実感する。このように、言葉を様々な方向から考える(解体する)ことで、より多くのアイデアが生みだされるのを受講生たちは実感しました。

総評

新しいことは、無から有を創り上げることではなく、無意識を意識化することで生まれるといいます。「普段何気なく通り過ぎてしまう、どうでもいいことでも、これは何をするものだろう?何と何があれば用途を規定されるのか?と考え続けることが大事で、頭の中に散りばめた点が幾つか結びつき、線となり、カタチになったとき、新しい価値を見出すと思います」 谷尻さんの一つひとつの言葉は受講生の頭の中で線となって、THINKという新しい大きな星座を描けた時間になりました。