テーマ:「空間デザインの探求-wool design roomの歩み-」
wool design room代表
河井 彩香 氏Ayaka Kawai
- PROFILE
- 1989年大阪府生まれ。2012年名古屋芸術大学卒業。アトリエ設計事務所、ミュープランニング勤務を経て、2021年 wool design room 設立。商業施設・宿泊施設を中心に空間を設計。住宅のリノベーション、自社民泊の企画運営も行う。日本国内だけでなく海外の案件も多数。「日常を少し上質に。」人に寄り添ったデザインやインテリアを主軸に提案している。woodberry coffee、ANDY COFFEE、山本のハンバーグ、茶寮FUKUCHA、PRONTO、東京ハイボール(Thai)、RoyalHost (Singapore)など。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「空間デザインの探求 -wool design roomの歩み-」
講義1
今回のプレックスプログラムは、初めてのご登壇となるウールデザインルーム代表 河井彩香さんをお迎えしました。ウールデザインルームには本校の修了生も在籍しており、そのご縁から今回の登壇が実現しました。講義の冒頭でお話しいただいたのは、デザインの世界に進むとは思ってもいなかったという子ども時代のエピソード。転機となったのは、中学校時代の経験でした。この時の反発から、「自分自身でルールを作る側になりたい」という思いが芽生え、何かを作り出す仕事、ひいてはデザイナーという職業に関心を持つようになったそうです。

講義2
最初はファッションデザイナーを志したものの、細かい作業が性に合わず断念。高校1年生の時に訪れた愛知万博で、無意識に床材の色や質感について語っている姿を見た両親から「空間デザインの仕事が良いのでは」と勧められたことで、一気に興味が広がったと振り返ります。「デザインというと天性のセンスが必要な世界だと思われがちですが、デザイナーの方の話を聞いたり、経験を積み重ねたりしながら、少しずつ理解を深めていきました。向いていないと思うことも多かったですが、それでもこの道に進みたいという気持ちの方が強かったです。」

講義3
大学に進学すると、流行に縛られず自分の「好き」を自由に表現する仲間に囲まれ、初めて自分を認めてもらえる場所を見つけたと感じたそうです。数ある課題の中でも、レストランや美容室を計画する店舗設計の課題に強く惹かれ、卒業制作では店舗計画をテーマに選定。本来はクラブを設計したかったものの企画が通らず、おにぎりショップになったというエピソードが披露され、会場の笑いを誘いました。卒業後は、入社2か月でヒアリングから引き渡しまでを任される環境で、寿司屋や屋外バー、高級レストラン、居酒屋など、幅広い業種の設計を経験したといいます。

講義4
日本一の案件数を誇るとされる設計事務所への転職後は、同時に10~20件の案件を抱えるなど、スピード感のある仕事を数多く経験。コロナ禍で飲食店の新規出店が減少したことを機に独立を決意し、2021年にウールデザインルームを設立されました。「コンセプトは“日常を少し上質に”。ラグジュアリーなものより、親しみやすくて、抜くところは抜いて、やるべきところはやる。個人に寄り添い、作り込みすぎないデザインを主流にしています。」窓のない物件だったウッドベリーコーヒー学芸大学店では、バリスタの所作を見せ場とする厨房配置を採用したことが紹介されました。

第2部:ワークショップ「普通を疑う」
ワークショップ1
ワークショップでは、バーをテーマに、「人がつながる場所」について考えました。今回は「普通を疑う」という視点を取り入れ、グループワークを実施。河井さんは、クライアントが思い描く「普通」を表現することに加え、あえてその逆を考えることで新しい発想が生まれると言及しました。「賑やかな居酒屋なら明るい照明というのが普通の発想ですが、あえて逆の暗い照明だったらどうなるかを考えてみることで、食事や人の動きにフォーカスした新しい賑やかさの出し方が見えてくるかもしれません。」

ワークショップ2
学生の発表では、既存のバーの概念を覆すユニークな企画が提案されました。夏祭りをテーマに屋台風のテーブルを設置し、ゲームによって人が移動する「バー・イン・モーション」、入店時に登録したアバターを介して交流する「アバターバー」、一度来たら二度と訪れられない「常連のいないバー」のほか、バーテンダー不在で昼のように明るいセルフ方式のバーや、ノートを通じて人がつながるバーなど、グループそれぞれが個性豊かな案を発表しました。

ワークショップ3
学生からの質疑の時間では、河井さんの設計哲学に踏み込んだ質問が相次ぎました。デザインを作り込む部分と力を抜く部分の考え方についての質問には、「いつも見せ場を考えています。図面を書いた時に自分がそこに入った気持ちになって、どこを見て感動するかを意識しています」と回答。引き出しを増やすには?と問われると、「実際に店舗に足を運び、感動した経験を積み重ねることが一番」と助言しました。デザインにおいてぶらさないポイントについては、「事業が活性化し、どう世間に受け入れられ、価値が上がっていくかを軸に考えることです」と締めくくりました。

ワークショップ4
不当な評価への反発から始まり、試行錯誤を重ねながら自分の道を切り拓いてきたと話す河井さん。独立後も業態にとらわれず、「見せ場」という一貫した軸をもとにデザインと向き合い続けてきたことが、講義全体を通して伝わってきました。最後に、「自信を持って就活をしてください。大変な仕事ですが、楽しんで続けていって欲しいなと思います」とエールの言葉も。自身のキャリアを振り返りながら語られた等身大の経験談は、これからデザインの世界を目指す学生たちにとって大きな刺激となったようです。河井さん、貴重なお話をありがとうございました。
