テーマ:「デザインでコミュニケーションをつくる」
canaria代表/アートディレクター
徳田 祐司 氏Yuji Tokuda
- PROFILE
- 電通、KesselsKramerを経て、2007年canariaを設立。ブランド・プロダクト・プロジェクト開発からコミュニケーションまでの一貫したコンセプトメイキング及びトータルデザインにおけるクリエイティブディレクション & デザインを得意とする。代表作:いろはす、野沢温泉蒸留所、ファイントゥデイ、CARAPPO、avatarin、ARSOA、吉乃川、豊岡演劇祭 など。 高度でインタラクティブな仮想体験・遠隔操作技術の実用化を目指す「avatarin」デザインパートナー、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員(広報委員長などを歴任) 、日本パッケージデザイン協会(JPDA)会員。2021年10月、TERRADA ART COMPLEXにてアトリエを開設。

第1部:講義「デザインでコミュニケーションをつくる」
講義1
本日のプログラムは、カナリア代表のアートディレクター徳田祐司さんをお迎えしてお送りいたします。徳田さんは電通へ入社後、渡蘭。その後カナリアを設立されました。幅広い分野でご活躍されている徳田さんの手掛けたお仕事は、飲料水のいろはすやユニクロなど、誰もが一度は目にしたことのあるようなものばかり。まさに日本を代表するデザイナーです。教室には多くの学生たちが期待を胸に膨らませて集まりました。

講義2
「デザイナーはデザインをする人ではなくコミュニケーションをつくる人です」と力強く宣言する徳田さん。ご自身が美大出身でつくることが目的になりがちだった経験から、コミュニケーションを目的とする重要性を痛感したと話されます。今回はそんなデザインについて、徳田さんなりの考えや思いをまとめてきていただきました。「テクニカルなことよりも思考法が割と特殊だと思うので、是非参考にしてみてください。」

講義3
表現をする人として、デザイナーには3つの側面があると徳田さんは話します。一つ目は「色や形で伝える人」。狭義のデザインとして色彩や形、写真、タイポグラフィといった要素への深い理解が必要だということ。二つ目は「深く考え、シンプルにする人」。多角的な視点を得ながらも最終的には圧倒的なシンプルさでたった一つの形や色に凝縮する能力が求められるということ。そして三つ目は「見えない価値を表に表す人」。無意識の状態にある美しさや価値を顕在化させることがデザイナーの仕事だといいいます。

講義4
続いての話題はオランダでの勤務経験から得たアートディレクターの位置づけについて。「グラフィックデザイナーは自分の表現スタイルでデザインをしますが、アートディレクターはあらゆる表現技法を駆使してチームでデザインする際の指揮者のような存在です」と徳田さん。ものごとをわかりやすく整理してシンプルにまとめ、視覚言語力を駆使しながら市場や社会をよりよくしていくこと。それこそがアートディレクターの果たす役割だといいます。

講義5
後半は徳田さんがこれまで手がけたお仕事を例に、徳田さんのデザイン思考を覗いてみましょう。まずは2009年に発売された「いろはす」。今でこそ多くの人に親しまれているこの商品ですが、そこには数々の困難と挑戦があったそうです。当時は別の商品名で売られており、ブランドとして成立していないという課題に直面したと話します。他のライバル商品との差別化を狙った徳田さんは、「おいしい」に加えて「環境にいい」といったエコアクションを取り入れることを提案しました。

講義6
「大自然からいただく美味しい水から、自然環境を守る、または自然環境の負担を軽減する水へとコンセプトを変更しました」と徳田さん。「選んで、飲んで、絞って、それだけで世界を変える水」という新しい価値を実現させたのです。そしていろはすは、見事発売から97日間で飲料ブランド史上最速の1億本突破という快挙を成し遂げました。続いての例は、「野沢温泉蒸留所」のプロジェクト。世界的に知られている野沢温泉村の魅力を、クラフトジンというプロダクトを通じてさらに広く伝えたいという依頼でした。

講義7
徳田さんは村のどこにいても聞こえる「水の音」と、50〜60年かけて湧き出す「湧き水」のストーリーに着目。「足元に、とてつもない水の巡りが巡っているということに気づき、その恵まれた土地という本質的な価値を見出しました」と徳田さん。円形のモチーフで水の循環や森の構造を表現し、山の連なり、動物たち、スキーヤー、温泉など、村の文化と自然の要素を組み込んだデザインを完成させました。村長も「野沢温泉村そのもの」と評価したデザインが誕生し、村全体を巻き込む形で蒸留所がオープンしました。

講義8
最後に質問タイムまで設けて下さり、とても有意義な時間となった今回の講演。「デザイナーが単なる形をつくる人ではなく、コミュニケーションをつくり、社会にポジティブな変化をもたらす存在であることを理解してほしいと思います。表面的な美しさだけでなく、物事の本質的な意味や価値を深く考察し、それをシンプルかつ魅力的な形で表現する能力が求められます。また、固定観念にとらわれず、常に問い直し、仮説を立て、体験から学び続ける姿勢が、創造的なアイデアを生み出す鍵となるのです。是非これから頑張っていってほしいと思います。」徳田さん、ありがとうございました!
