PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「越境するデザインの力」

セイタロウデザイン代表/アートディレクター

山﨑 晴太郎 氏Seitaro Yamazaki

PROFILE
株式会社セイタロウデザイン代表。横浜出身。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やデザインコンサルティングを中心にしたブランディング、プロモーション設計を中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトと多様なチャネルのアートディレクションを手がける。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、クリエイティブアドバイザーも務めた。 株式会社JMC取締兼CDO。株式会社PLUGO CDO。

第1部:講義「越境するデザインの力」

講義1

今回のプレックスプログラムの講師は、セイタロウデザイン代表・アートディレクターの山﨑晴太郎さんです。複数の企業で経営業務も行っている山﨑さんのデザインのキャリアは、意外にも写真から始まったといいます。現在ではグラフィック、Web、空間、音楽など、驚くほど多くの領域のデザインを手掛けられていますが、多方向から学ぶことで分野を超えて経営の考え方までにも繋がっているのだそうです。本日は、経営や行政との連携にも深く通じているプロフェッショナルである山﨑さんに、「越境するデザインの力」についてお話ししていただきます。

講義2

デザインの力は、「デザイン思考」と呼ばれるような考え方と、デザイナーの一般的なイメージである「見た目を扱う意匠」で構成されています。この2つの要素を組み合わせると、5つの力になるそうです。1つ目は非連続な未来を想像する力。好奇心や企画・編集に近い領域の力です。2つ目は物事の本質を捉えシンプルにまとめる力。クライアントが伝えたいたくさんのメッセージを整理して、シンプルな形に落とし込む作業です。伝えるべきメッセージを探すというよりは、因数分解を解くような感覚に近いそうです。この力は経営で最も生きる力だと山﨑さんは言います。

講義3

3つ目のデザインの力は、顕在化していない概念を可視化することです。世の中でまだ言語化されていない「曖昧なこと」にこそ、価値があると山﨑さんはおっしゃいます。その新しくて面白いものを捕まえると、意匠の力でぐっと立ち上げて形にすることができるのだそうです。4つ目は、一貫した気配で彩り美しく佇ませること。意匠側の大きな力です。そして最後の力は、人の心を動かすこと。「デザイナーになったきっかけって、作ったものが好きとか、かっこいいものに出会ったとか、結局人の心が介在しています。その部分を一番頂点に正々堂々と置きたい」と山﨑さん。

講義4

デザインの力を生かした事例として、文房具メーカーのプラットフォームであるコーラス株式会社のプロジェクトを紹介していただきました。ロゴとキービジュアル作成の依頼があった際、山﨑さんは社名の由来や経営体制についての資料を読み砕くことから始めたそうです。会社を表現するにあたり、プラットフォームとして各メーカーをただ繋げるというイメージではなく、音楽のようにしなやかな繋ぎ方にしたいと考えました。そして、カリグラフィや筆記体、線などを用いて、「字を書く楽しさ」をイメージしながらアイデアを出したそうです。そうして出来上がったインパクトのあるキービジュアルは、オフィスの壁に大勢の人の手書きによって再現されました。「文房具の持つ楽しさや想い、またデザインの持つ狂気などの気配を可視化したいと思いました。」

第2部:ワークショップ「供養のデザインを考えよう」

ワークショップ1

デザインの力を越境していくと、アウトプットしたものから気配に、気配から感情に、感情から行動変容に、そして概念のデザインになり、社会をデザインして動かすことができるようになります。後半のワークショップのテーマは「供養の概念を変える」です。供養と言えば、法事やお墓参り、祖先を大切に思うこと等が挙げられますが、家庭や地域によって周期も方法も全く異なります。従来の供養のかたちは現代社会に合っているのかを見つめ直し、新たな供養の概念をイメージするワークショップです。「思考だけで解くパターンもあれば、手を動かして解くパターンもありえます。自由にやってみてください」と山﨑さん。

ワークショップ2

学生たちの発表を紹介します。初めに発表したチームは毎日の供養に着目。もし自分が死んだらもっと身近に感じてほしいという思いから、部屋に飾りやすい自画像アートの供養を考え出しました。好きなタッチで自画像をつくることで、自分の嗜好も合わせて楽しんでもらえます。「いきなり面白かった。右手の感覚が強めなアイデアですね」と山﨑さん。あるチームからは、故人から一周忌等のタイミングでLINE連絡が来る供養のアイデアが出ました。身近にあるツールを使うことで、親族の集まりの連絡を取りやすくします。山﨑さんは「生きている人たちのハブになることは、供養のひとつの本質ですね。いい着眼点だと思います」とコメント。

ワークショップ3

また、あるチームは、残された人同士が、故人の新しい一面を共有する場の重要性をアピール。供養に参加した人同士で故人の年表をデータベース化したり、人生ゲームにして遊ぶアイデアが出ました。「ぶっとんでいて良いですね。死者を暴くことになりかねないので出力の調整は必要だけど、生きている人の繋がり直しを展開できる可能性がありそう」と山﨑さん。また、服装やお供えのコードを取り払って、みんなが訪れやすい共同墓地を作るというアイデアを提案したチームには、「みんなが来ればにぎやかでいいなという故人目線のプレゼンが面白かった。ここまで入り込めると生きている人の問題も解決していきそう」とコメントをいただきました。

総評

最後に総評をいただきます。「曖昧な世界に領域はありません。事業や表現の手段は概念化した後の世界です。その一歩前の自分の世界に戻してみたら、もっと曖昧な中で思考と意匠が動いていくと思っています。ここでやったようなことが、社会実装できる未来があるというのは、デザイナーとしてワクワクするポイントです。概念を変えて社会をデザインするという可能性が、皆さんの右手の先にもあると思います。まだまだこれから脳も右手も鍛錬が必要だと思うし、狭き門ではありますが、そこはめちゃくちゃ輝いているし、いい景色が広がっていると思います。ぜひ頑張ってください。」山﨑さん、ありがとうございました。