PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「編集者による『伝える』ためのデザインの作り方」

「装苑」編集長

児島 幹規 氏Mikinori Kojima

PROFILE
編集者。1968年、岐阜県生まれ。専修大学の学生時代、リクルートなどで編集の仕事に興味を覚え、卒業後、1992年に世界文化社に入社。こだわりのモノやファッションを紹介する男性月刊誌『Begin』に配属され、2004年、編集長に就任。流行やブランド力に左右されず独自の視点でモノを選んで特集を組むことにこだわり、次々とヒット商品を生み出す。2009年より『MEN’S EX』の編集長に。2013年10月より学校法人文化学園文化出版局、雑誌事業部事業部長兼、雑誌部部長兼、「装苑」編集長に就任。主な受賞歴は、毎日ファッション大賞、Tokyo 新人デザイナーファッション大賞、ORIGINALFASHION CONTEST、浜松シティファッション コンペ、コッカプリントテキスタイル賞「inspiration」他審査員、FEC (ファッションエディターズクラブ) の理事も務める。

第1部:「編集者による『伝える』ためのデザインの作り方」

講義1

本日のプレックスプログラムは「装苑」編集長・児島幹規さんにお越しいただきました。児島さんは「Begin」「MEN’S EX」の編集長を歴任し、特に「Begin」時代には高い実売数を叩き出すなど、今までにないページ作りで多くの読者にファッショントレンドを伝えてきました。7年ぶり2回目の登壇となる今回は、児島さんが伝えることに対してどのように向き合っているのか、ご自身の体験も交えてお話しいただきます。「今日は受け身にならずに。何かを持って帰るつもりで聞いてほしいと思います」と児島さん。本日はよろしくお願いいたします!

講義2

児島さんが雑誌の仕事に興味を持ったきっかけは、電車の中吊り広告でした。広告に載っていた雑誌をたまたま目の前の人が読んでいたことから、雑誌の影響力を感じたそうです。その後アルバイトの編集アシスタントになると、児島さんは同期の誰よりも早く自分のページを世に出したいと、自ら海外取材を企画し実行します。そしてニューヨークのアートスクールを取材し、見事編集長からページをもらうことができました。掲載の2ヶ月後に「その学校に進学を決めた」と3人の読者から手紙が届き、この出来事がきっかけで、児島さんは編集者を志すことにしたのだそうです。「最初の衝動は一番強いから、それを忘れないでほしいです。挫折しそうなときも、自分の気持ちに火をつけることができます。」

講義3

Beginの編集長になった時、児島さんは「誰もやったことがないこと」をしようと思い、あえて「誰もやりたくないこと」を実行したそうです。「人があまり会わないような人に会ったり、アイテムの歴史を細かく紐解いたりと、面倒くさいことを楽しんで雑誌を作っていたらすごく売れましたね」と当時を振り返ります。装苑の編集長になると、児島さんはアートディレクターの固定制を廃止します。毎号変わるテーマに必要なデザインは、それぞれ違うものだと考えたからです。当初編集部員からは大ブーイングを受けましたが、児島さんは、「何を伝えたいのかを考えてデザイナーを探して」と粘り強く伝えたそうです。

講義4

何かを発信する立場になるには、すでにあるものから選ぶという癖を無くしていかなければなりません。「これでいい」ではなく、「これがいい」という視点を持ってほしいと児島さんは仰います。そして他人の評価に臆さないことも重要です。「低評価も無視も大歓迎という気持ちで!発信しない人より数百倍上だと思うよ」と学生に力強く伝えます。低い評価をされたら嫌だという気持ちで中途半端になってしまうと、評価もされず、自分のアウトプットにもなりません。児島さんは「多くの実例よりも勇気を持つことを伝えたかった」と講義の前半を締めくくります。

講義5

発信することに関連して「とにかくアウトプットする癖をつけてほしい」と児島さん。多くのクリエイターは自然とインスピレーションが降りてくるというわけではなく、自分の中にあるものしか出すことができないといいます。自分の中に情報を入れるためには、知ったかぶりをせずに相手から話を引き出すコミュニケーションが重要です。学生には自分のできること・できないことを認めて、自分の才能を伸ばしてほしいそうです。「伝えたいことは必ず自分の中にあります。デザインはその手段にすぎません。」

講義6

装苑の表紙の制作秘話も話していただきました。アートディレクターが変動する各号の表紙に共通することは、文字の色の数。写真を生かすために2色以内に抑えています。写真を伝えることにこだわるのは、写真が好きな人が読者の軸だからという理由です。また、各年で裏テーマを設定しているそう。例えば2019年は、もてはやされ過ぎた「個性」が薄っぺらになってほしくないと、個性の表現や偏愛をテーマに。2020年はコロナ禍で「エンタメに救われてしまえ!」と、映画やドラマ、アーティストを接点に。2021年からは自己肯定をテーマに、自分の意志を伝えることや認めることを伝えたいと雑誌づくりをされているそうです。

質疑応答

学生から「児島さんは、人と違うことをする勇気をどうやって手に入れたのか」という質問がありました。児島さんも、自信いっぱいという訳ではなく不安を抱えているそうです。不安を払拭するためには、聞く・調べる・見るをひたすらすること。「例えば高級なシャツを買って、洗濯機で洗ったら一瞬でダメになるんですよ。使った経験があるとそう言えます。自分の言葉で言うために買っていました。」さらに、チームメンバーのに向き合い、メンバーの個性に合わせた伝え方やチーム編成をすることも心掛けているそうです。普段から「違うこと」を意識する経験の積み重ねが、雑誌づくりに反映されているのです。

総評

最後に総評をいただきます。「いろいろ話した中で、今まで興味が無かったけど気になった部分があったと思います。それが実はあなたが興味があることで、実は無意識のうちに気づいています。なぜ面白かったのか、その一歩奥を探してみてください。もしかしたら、今回の話で聞きたかったことを聞けなかった人もいるかもしれません。なんで聞けなかったのかを振り返って、それを次に活かしてほしいです。ここにはあなた以外の他人ばかりで、自分ができないことをできる人がたくさんいます。大チャンスです。いろんなチャンスを自分で考えて動いてほしいなと思います。」児島さん、本日はありがとうございました!