PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「チャンスをデザインする」

フューチャーデザインラボ ジェネレーター

山本 尚毅 氏Naoki Yamamoto

PROFILE
システム会社に勤務後、2009年に発展途上国の課題解決を目指した株式会社Granmaを創業。複数の展覧会を開催し、デザイン領域と社会課題の接点を創る活動に注力。現在は学び領域にシフトし、複数プロジェクトを進行中。

第1部:講義「チャンスをデザインする」

講義1

本日のプレックスプログラムは当校のフューチャーデザインラボジェネレーターの山本尚毅さんをお呼びしています。山本さんは大学時代に飢餓の問題に興味を持ったことをきっかけに、ソーシャル・デザインの領域で活躍されてきました。フィリピンのゴミ山視察の経験をもとに企画された「世界を変えるデザイン展」では、切実な問題解決のためのプロダクトが世界中から集められ、多くのデザイナーが衝撃を受けました。現在、山本さんはソーシャル・デザインの領域の中でも特に「学び」にフォーカスした活動をされています。今回はご自身にとっても初めてのテーマである「チャンスのデザイン」についてお話しいただきます。

講義2

なぜ今「チャンスのデザイン」なのか、その背景を説明していただきました。キーワードは「個の時代と社会の空洞化」です。ひとりで過ごす時間が増え、出会いのチャンスが減っています。世界の政策を見ても、個を支援する政策にシフトしていることから、個々人で生きていく時代に変わってきていることがわかります。それに伴い、公(パブリック)、私(プライベート)、共(コモン)の3つの領域の中で偶然が起こりやすい共の部分がしぼみつつあるのだと山本さんは仰います。さらに社会の空洞化が進む中で、ノイズを減らし見たいものだけ見ること(フィルターバブル)で、想像力が欠如し、偶然に対する感受性が劣化していくことが危惧されます。

講義3

「世界を変えるデザイン展」を通して、山本さんは途上国の問題解決のためには、プロダクトを作るだけではなく、Value Chain(価値の連なり)の全てに関わる必要があると考えました。しかし、大きなシステム全てに自分たちが関わることは、人数規模や経験値の点でできることが限られていたと言います。それをきっかけに山本さんは自分のスタイルを生かす余裕を確保しながら、社会に離れすぎないところから社会を変えていくという距離感を意識することになったそうです。現在はValue Chainの中の「関わりのデザイン」と「自発的に学ぶ」範囲にフォーカスして様々なプロジェクトを進められています。

講義4

山本さんは学びの中でも、「未来」をテーマにした学びにフォーカスしています。中高生を対象としたプロジェクトや、教師の方達と「未来という教科があったらどんな授業を作るか」を考えるワークショップを行っています。ユネスコの提唱したフューチャーリテラシーの定義の中に、「想像力の貧困」という言葉を見つけ、過去と現在の仕事が点と点で繋がった感覚になったそうです。また、プライベートでは流れているチャンスを掴むタイミングについて考えるイベント企画やZINEの作成、趣味の領域では読書・書評から繋がって、ライブラリースペースの選書を依頼されるなど多様な角度から社会や未来に関わる活動をされています。

第2部:「チャンスをデザインするワークショップ」

ワークショップ1

講義の後半はチャンスのデザインについてのワークショップです。山本さんは世の中には3つのキャリア論があると仰いました。分かりやすいゴールがあり目標設計がしやすい「山登り」、時代の変化に合わせて激流を漕いでいく「川下り」、そして自由気ままに歩いていきながら、そこで見つけたチャンスを仕事に繋げる「ブラタモリ」。偶然の出会いが非線形に繋がりあいながら進んでいく「メッシュワーク」と呼ばれる形のキャリアです。今回はキャリア論とチャンスの視点から、メッシュワーク的に未来に進むためにできること3つをワークショップで実践します。

ワークショップ2

メッシュワークの新しい線を描くためのポイントは他力本願。他人に自分の可能性を考えてもらって想定外をデザインします。1つ目のワークは馴質異化フィールドノートです。お互いの財布を観察して、相手がどんな人か想像してメモを書きます。2つ目のワークは、お互いの偏愛マップを一緒に作ります。まずは個人で自分の偏愛を3〜4つ書き、相手の偏愛するものを妄想して1グループ、相手が会いたい人を1グループ書き足します。相手と関わりを持つときに、どんな人かをどれだけ想像して提案できるかがチャンスのデザインには重要です。「相手が想定していないけど、あ、いいかもと思いそうなところを書いてみてください。」と山本さん。

ワークショップ3

3つ目のワークでは、会いたい人にコールドメールを書いてみます。コールドメールとは交流のない相手に直接メールを送ることです。チャンスをデザインする上で一番直接的な行為だと言えます。ポイントは冷静に相手が今求めているものを計算すること、そして自分が相手のために提供できることを書くことです。学生たちがコールドメールを書いた相手は漫画家やアーティスト、隣の学生に紹介されたデザイナーや花屋など多岐に渡りました。このワークを通して、他人から提案されたものをやってみる、会うとよさそうな人に会ってみることで、自分の隠れた関心に気づくことができます。これがメッシュワークの粘り強い線につながります。

ワークショップ4

最後に総評をいただきます。「今までのデザインは公・私の依頼に答えるものでしたが、小さくなりつつある共の部分を豊かにしていくコ・デザインのアプローチが当たり前になってきています。未来のデザインに関しては、人類学の世界でも、西洋中心ではなく南米から考えたデザインなど、多元的なデザインが勃興しています。欧米の考えたSF的な未来以外にも違う視点の未来があるという考え方に、デザインは関わってくると思います。偶然というのは準備しているからこそ見つけられます。チャンスのデザインができるように今日の話がお役に立てば嬉しいです。」山本さん、本日はありがとうございました。