PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「More Imaginative LIFE」

フューチャーデザインラボ ジェネレーター

山本 尚毅 氏Naoki Yamamoto

PROFILE
システム会社に勤務後、2009年に発展途上国の課題解決を目指した株式会社Granmaを創業。複数の展覧会を開催し、デザイン領域と社会課題の接点を創る活動に注力。現在は学び領域にシフトし、複数プロジェクトを進行中。趣味は本を読み、人に会い、たまに雪山に行くこと。また、2011年より書評サイトHONZのメンバー。2023年より日本総研創発戦略センタースペシャリストとしても活動中。

第1部:講義「デザインを通じて私たちに何ができるか?」

講義1

本日のプレックスプログラムは株式会社グランマの共同創業者、山本尚毅さんに行っていただきます。本校では今回が3回目となる登壇ですが、毎回参加者は尽きません!それでは、まずは簡単な自己紹介から。石川県で生まれ育った山本さんは、北海道大学農業経済学科を卒業後、システム会社の営業職に就きました。その後、3人のバックパッカー仲間と株式会社グランマを設立することとなります。

講義2

立ち上げたメンバーだけど起業家ではない、ただの共同創業者。発展途上国に関する活動もしているけど、専門家ではない。」と、自身を語る山本さん。やってみないとわからない、という性格のため、会社に行きながら学校に通い、プロジェクトを進めるうちに“気軽に”会社を設立。事業プランがないまま半年が過ぎた時、3人でフィリピンを訪れます。

講義3

ゴミ山でゴミ拾いをしている人たちを見て、もっと道具を効率よく使えば時間を有効に使えるのではないか、Design for the other 90%(10%の富裕層のためではなく、残りの90%の人のためのデザイン)というシステムの必要性に気がつきます。

講義4

そして、グランマの名を世に広めるきっかけとなった「世界を変えるデザイン展」の概要とその手応えに加え、東日本大震災後、企業が社会問題の解決に乗り出したことで話題となった「未来を変えるデザイン展」についてもお話しいただきました。また、山本さんがとらえる、人と人との関係性をデザインするという意味での「ソーシャルデザイン」や、現在、日本の大企業と行うプロジェクトでの問題点、そしてプロダクトデザインをする上でのフレームワークについてもご説明いただき、前半が終了。

第2部:ワークショップ「こんなカタチのトイレをつくろう」

ワークショップ1

本日のワークショップは「こんなカタチのトイレをつくろう」がテーマです。実際インドネシアで山本さんが行っている、トイレプロジェクトに勝る案は出てくるのでしょうか。まずは5~6人のチームに分かれ、“未来のトイレ(今あるトイレをどう新しい価値観のトイレに変えていくか)”または、“発展途上国にある様々な問題を解決するためのトイレ“について話し合います。およそ40分後、どちらかの案を紙に書き発表。各チームの代表がトイレのデザインを描いたイラストや、詳しい仕組みを説明するポイントをわかりやすく説明していました。まずは発展途上国の現状を知ろうとネット検索をする人や、その国独自に抱える問題に着目する人も。初対面のメンバーが多い中、意気投合し話が盛り上げるグループもあれば、誰の意見が正しいのかまとめるのが難しく、全員うーんとうつむいてしまうグループの姿もありました。あらゆる角度から一つの物事を見つめる、白熱したディスカッションが繰り広げられた末、最終的にはうまくアイデアをまとめ、発表する担当者が決まったようです。こういう時にはリーダーシップをとれる人材も重要ですね。 未来のトイレ案を出したグループの中には、トイレ事情を熟知している山本さんも初めて聞くような斬新なアイデアが。

ワークショップ2

えば便器部分が可動式で子どもから大人までが自分の高さや用途によって、調整ができるもの。または部屋の中を移動するルンバ型の喋るトイレは、限られたスペースしかないトイレをそもそも部屋の中につくらないという概念。そして極めつけは、トイレに入っていることを誇らしく思えるような貢献型のトイレ。ペダルをこぐと古紙がシュレッダー処理され、トイレットペーパーがつくられる。こもればこもる程、世界に貢献できるという仕組みのものなど、ユーモア溢れる新たな価値観に会場がどっと沸きました。

ワークショップ3

一方、発展途上国の問題を解決するトイレ案では、飛行機や電車のトイレのように空気圧縮機を使い節水を図るものが共通。また、インド人女性の差別問題に特化し、古布を使ったプライバシーを守るトイレや、トイレの定義から考え直し、誰でも簡単にどこでも持ち運べ、ずっと使えるくつろぎの空間を考えたグループも。そして、そもそもトイレの概念がないアフリカを考慮したトイレでは、排泄(おしり)のマークを書いたサインを置くことで、人々の意識に呼びかけ衛生面の改善が期待できるのでは、という案が出ました。日本では当然のことが、海外では通用しない現実を的確にとらえたインスピレーショナルなアイデアです。

総評

最後に山本さんから一言。 「25億人がいま、トイレが無い状態。トイレに出資をすれば5倍の費用対効果があるという明確な資産が出ているのに、なぜか投資が集まらない、値するアイデアが出ないというのがこの問題が続く理由です。もっとニーズの高い、人口が集まる都市部を考えたプロダクトも考えなければいけません。イギリスのセント・マーチンで革新的なトイレがデザインされたり、あのビル・ゲイツも科学技術を使ったシステムに投資をしているので、まだまだ開発の余地はあると思います。今日の皆さんのアイデアは僕にとっても非常に勉強になりました。」