PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「デザインレストラン OUWN」

OUWN代表/アートディレクター

石黒 篤史 氏Atsushi Ishiguro

PROFILE
1983年生まれ。佐野研二郎主宰のMR_DESIGNを経て、「OUWN」を設立。グラフィック、サイン、ファッションからwebなど多角的に企画立案製作に携わる。近年の主な仕事には、THE SUIT COMPANYのリブランディング、辻利160th アートディレクション、PARCOバレンタイン広告、Benesseなど。また、アートプロジェクト[People and Thought.]を始動し、デザインの枠組みを超え、展覧会を多数開催。

第1部:講義「デザインレストラン OUWN」

講義1

本日の講義は株式会社OUWN代表・アートディレクターの石黒篤史さんです。プレックスプログラムでは2回目のご登壇となります。社名であるOUWNは、様々な人と繋がることや共感することでデザインを追求したいという思いから、OWN(私たち)とU(あなた)を組み合わせた言葉です。石黒さんはアートディレクションを中心に、ファッション広告やWebデザイン、キャラクターやアートワークの制作など、多岐に渡るクリエイションを手掛けられています。今回はOUWNの多様な事例から、クオリティの追求の仕方についてお話ししていただきます。

講義2

OUWNの強みのひとつとして、グラフィックだけではなくイラストやコピーも一貫して提案するトータルビジュアルデザインがあげられます。例えば、店舗のサイン設計の場合はイラスト制作を社内で完結することで、イラストレーターの知名度や作家性に左右されることなく、設備の規格へのフレキシブルな対応や、施設のテイストに寄せる細かな調整が可能になります。柔軟なイラスト制作ができる中でも、どうしても作風の色が付いてしまうため、メインの提案では出さなかったり、クオリティとのバランスを考えて「あしらい」として小さく使ったりすることも多いそうです。クライアントワークを重視するスタンスは、OUWNの社名にも通じています。

講義3

パルコのバレンタインのデザインは「気持ち積もる」のコピー通り、色とりどりのプレゼントボックスが重なるビジュアルが展開されました。OUWNでは、アートディレクターやデザイナー自身がビジュアルと合わせてコピーを設計することも多いそうです。そのコピーはビジュアルと強く結びつき、インパクトのある一発になるのだとか。細部を見ると、グラデーションに焼けた紙の風合いを挟む、幾何学的なフォントを手書きに直すなど、隅々まで人の手が入っていることがわかります。「ここがデザイナーの腕の見せ所で、あたたかみをどう出すか最後まで検証を重ねています。気づいて喜んでくれる方もいますし、プレゼンで温度感が伝わる部分でもあります。」

講義4

今までの広告業界の辛さも知りつつ、もっと調和を重視してデザインの追求をしたいと希望を込めて設立されたOUWNはデザインレストランとも称されます。この呼び名には「レストランにシェフ、ソムリエ、接客などの役割分担があるように、デザインにおいても、それぞれの持ち場でポテンシャルを発揮しなければ最高のものは作れない」という石黒さんの考えが根底にあります。OUWNでは、アシスタントは多様な素材を作ってバリエーションを広げ、デザイナーが職人的に突き詰めて深掘りをし、その中で生まれたいいものを広い視野をもったアートディレクターがさらに広げていくという明確な役割のもと、クオリティを追求しています。

第2部:「グラフィックデザインワークショップ」

ワークショップ1

後半はワークショップを行います。学生たちは、事前に配布されたA〜Dの4つのポスターが載った架空のポートフォリオ1ページを見やすくリデザインし、そのロジックを説明します。発表では、視線移動とポスターの印象のバランスを考えたレイアウト、作品を引き立たせるための余白など、それぞれの学生の視点でデザインロジックが説明されました。中には元のデザインの長所と短所の分析からデザインを組み立てた学生も。石黒さんからは、この課題を出した理由について「こういったものに正解はあまりなくて考えるポイントが重要なんです。レイアウトや色、文字など単純なものほど、何を見せたいかといった思考が見えます」と解説がありました。

ワークショップ2

学生の発表の後は、石黒さんご自身による課題のデモンストレーションです。「これがお皿に乗った料理だったら、自然の景色だったら」と例えながら、安定したレイアウトや上品に見える余白になるように手を入れていきます。キャプションだけでも、表記の言葉選び、ポスターに対してのサイズ、視線誘導に沿った揃え方といった要素が存在することがわかります。石黒さんのロジックを反映することで、課題はどんどんデザインされたポートフォリオになっていきます。「デザインは意図が見えると質がグッと上がってくるので、ロジカルな考え方の意味が出てきます」と石黒さん。

ワークショップ3

「大地と空」のように、暗いものが下にあって上に抜けがあると目に馴染むことや、料理を盛りつけたお皿の「余白の美しさ」など、デザインのロジックは日常に潜んでいます。印象的だったのは矩形の枠についてのお話。自然界に輪郭線は存在しません。美術館の図録などにも枠はついていないのだとか。ある写真集では地をグレーにすることで作品の矩形を保ち、透明ニスの処理で明度を調整しているのだそうです。このような手法を取り入れ、ポートフォリオの地に薄く色を載せることで全体を綺麗に見せることができます。より良い作品を作るために、日常に目を向け、いい作品に触れることの大切さを、学生たちは自分の目を通して実感したのではないでしょうか。

総評

最後に総評をいただきます。「ザ・グラフィック!という感じの実践的な課題になりましたが、答えはひとつだけではなくて、こういう方法があるよと自分の持っている引き出しでやってみただけだったりします。僕自身、これからもどんどん更新していくし、ゴールってあまりなかったりもするので、たくさんの正解があり得る面白さがデザインにはあるなと思っています。今はWebや3D映像、SNSなど、領域の幅がどんどん広がっているので、やりたい方向性を絞りづらいというデメリットもありますが、色々なものに触れて、可能性を見出してほしいです。」石黒さん、本日はありがとうございました。