PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「空間ブランディング AtoZ」

ブランディング/クリエイティブディレクター

菅野 慶太 氏Keita Kanno

PROFILE
WHITE PAPERS Ltd, 代表取締役。広告代理店、空間プロデュース会社を経て、2007年よりTRANSIT GENERAL OFFICEに参画。プロデュース事業部を立ち上げ、コンプレックスビルディングや商業施設などのプロジェクトに従事。2013年WHITE PAPERS 設立。企画とブランディングを主軸に、クリエイティブディレクション、インテリアデザイン、グラフィックデザインなど幅広く活動。ファッション性の高い飲食事業の開発から大型施設の企画開発まで、多彩なプロジェクトを手掛ける。企画やビジネスの組み立てからの参画も得意とし、コンサルティングなども行う。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「空間ブランディングAtoZ」

講義1

今回のプレックスプログラムはブランディング/クリエイティブディレクターの菅野慶太さんにお越しいただきました。菅野さんは、新しいワークスタイルを提案する複合施設「EAT PLAY WORKS」やフレンチフライ専門店「AND THE FRIET」など、人々の注目を集める新しい空間を手掛けられています。今日の講義は「空間ブランディング AtoZ」と題し、菅野さんの空間ブランディングのワークフローを追いながら、「空間に紐づくことを可視化し、マネタイズ(収益化)できるものとして回していくこと」についてお話ししていただきます。

講義2

ユーザに体験を通して認知してもらう、記憶に残ることが空間ブランディングの第一歩です。美味しいものを食べた、いい空間で心地よかったといった記憶に残るためにはブランドとしての情報設計が重要です。このアウトプットのために、体験で得られた暗黙知を形式知にすることが大切だといいます。「普通のユーザーはいいお店でよかったなで終わっていいんだけど、僕らのサイドは人の気持ちを動かす仕事でしょ。なんでよかったのかを自分の中で反芻して、頭で分解することをずっとやり続けてください。いわゆるパクリで表側だけを真似をしても、それは作り手の形式知からできたものではないため、本質的にユーザに受け入れられません。」

講義3

菅野さんはワークフロー序盤の「与件の整理」が非常に重要だと話されます。与件の整理ではクライアント自身も言葉にできない「本当にやりたいこと」や「悩み」をヒアリングして紐解き、提案につなげます。得た情報を整理してファーストプライオリティを見つけ、そこにフォーカスして提案を広げていくのですが、情報不足だとそもそもプロジェクトにまで発展しないため、一粒の情報でも拾いあげる姿勢が重要だといいます。「どんどん聞いたほうがいいです。かけだしのときは特に、知らなくていい情報は ありません。うざいと思われることよりも喜ばれることが多いと思うし、うざいと思われても僕らには関係ないですよね。」

講義4

ワークフローの最後に、事業収支の検証を挙げ「一見クリエイティブには必要ないと思われがちだけど、実はめちゃくちゃ重要で数字に対しての知見は絶対にあるほうがいい」と話されました。手掛ける施設がどういう収支的な設計で成り立っているのかを理解しているほうが説得力のある提案もできるし、ディベロッパーも含めた共通言語ができるので、説得力のある提案ができるといいます。「アイデアと企画の違いはマネタイズ(収益化)するかどうかです。時間と同様に数も人類に平等に与えられたものです。プロジェクトにとって大事なことが数字で表されている場合もあるので、数字を理解することに慣れておくといいです。」

第2部:Q&A

質疑応答1

後半は学生からの質疑応答を行います。最初の質問は「みんながブランディングをしていくと独自性のあるポジションが埋まっていくと思うのですが、その先はどうなるのでしょうか」というもの。ブランディングの未来について菅野さんは答えます。「みんなのブランディングのリテラシーが上がり、どう差別化するのかという時代がもう来ています。解決策としては、 膨大なインプットの量で自分をユーザやクライアント以上のリテラシーにすること、クライアントとの共通言語を十分に理解しておくことです。また、ブランドに求められる価値が、以前に『もの』から『こと』に変遷したように、今は『こと』から『ストーリー消費』へと変わってくると思います。」

質疑応答2

「インプットの量を増やすために行っていることはありますか?」という質問には、空間ならではのインプットの仕方を答えていただきました。「まずは雑誌やWebマガジンを満遍なくキャッチアップすること。そして実際の場所に行くことです。紙面や画面で見る情報では限界があって、視覚と聴覚しか使いませんよね。現場では全身でインプットできます。最初は何もわからなくても、何回も行って体で差別化を理解して、形式知にしていけばいいと思います。アウトプットは作って終わりじゃなくて、それを見た自分にまたインプットするというサイクルです。インプットがたまったらアウトプットしないと、どちらも腐っていってしまいます。」

質疑応答3

「クリエイティブを学び始めた頃の自分にアドバイスするなら」という質問にも真摯に答えていただきました。「何もないです。僕は恵まれていたなと思います。クリエイティブの世界を知ったし、そういう人にも出会えたから。人間ってなんとなくこういうものをやりたいなーというものを引っ張るんですよ。チャンスを与えてくれる人とかものとか。そういう磁石がすごく強い人もいるし、弱くても絶対に引っ張ることができます。何かをしたいなと思ったときにクリエイティブという世界をキャッチアップできた自分をほめてあげたいです。」 どの質問にも、学生たちにクリエイターとしての意識を伝えるように答えていただきました。

総評

最後に総評をいただきます。「好奇心と純真さをもち続けてください。さまざまな事象に好奇心がある自分を褒めてあげてください。次に、本来物事に善悪のような選択肢が2つだけということはありません。それぞれがいて当たり前だという前提で受け止めると、それぞれに向けて話ができます。僕らのようにアウトプットとして世界を作っている立ち位置だと、偏っているとなかなかうまくいきません。最後に、情報をかき集めること。マテリアル探しの旅に出てください。お金を使うことだけじゃなくて、人に会うこともそうです。おじけずに、情報をかきあつめることにフォーカスしてやってください。」