PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「『伝える』のヒント Ⅲ」

コピーライター

渡辺 潤平 氏Junpei Watanabe

PROFILE
コピーライター。1977年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。博報堂、GROUNDを経て渡辺潤平社設立。最近の仕事に東京2020オリンピック日本選手団応援キャンペーン「全員団結」、東京2020オリンピック選手村跡地プロジェクト「HARUMI FLAG」、GYAO!ブランド広告「いい動画と、暮らそう。」、パーソルグループブランド広告「ニッポンの人事部長」、マネーフォワード マネーフォワードME「お金って、」、HONDA INISGHT「Believe your INSIGHT.」、日本経済新聞 日経電子版「田中電子版」、大塚製薬オロナミンC「前向き!前向き!」、千葉ロッテマリーンズシーズン広告、UNIQLO「TANPAN!」「新チノ」「新カーゴ」ウルトラライトダウン「あなたは、着てみておどろく。」など。カンヌ国際広告祭ブロンズ、TCC 新人賞、日経広告賞部門賞など受賞。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「伝えるのヒント」

講義1

今回のプレックスプログラムは、コピーライターの渡辺潤平さんの授業です。過去に参加した学生から「楽しかった!」と評判の声が多い渡辺さんのプレックスプログラム。今回も、卒業生の声などを聞きつけて多くの学生が参加しました。渡辺さんは今回で3 回目の登壇になりますが、この参加者の人数に「すごい人口密度が…高いですね」と驚かれていました。まず最初に渡辺さんから自己紹介を兼ねて、最近のお仕事の事例を紹介していただきました。どれも一度は目にしたことのある広告で、講義の冒頭から映し出されたスクリーンに皆さん目が釘付けです。

講義2

渡辺さんは問いかけます。「突然ですが、今日、誰とも喋ってない。何も文字を書いていない。そんな方はいますか?」「…いませんよね。言葉は水や空気と一緒で、生きていくためには絶対に欠かせないものです。」ただ一方で、自分の言葉を普段人はそれほど意識していないと渡辺さんは続けます。「伝えることの面白さや伝わることの面白さ、その感覚を覚えると仕事でも普段の生活でも必ず良い方向に生きてきます。」では、実際にどんな言葉を使えば、人の心は動くのでしょうか。そこで渡辺さんが広告を作る上で影響を受けた「名作コピー」を幾つか紹介してくれました。そのコピーたちにはある共通点があると続けます。

講義3

その共通点とは、「全然難しいことは言っていない、当たり前のことを言っている」ということ。コピーは特殊技術ではなく、すごく素直であればあるほど強い言葉になると渡辺さんは話します。技術よりも、日常に溢れるヒントをつかむ力、発見する力が大事であり、その方が同じ日常を生きる人々の心に刺さるのだそうです。次に、具体的にそんなコピーを作るやり方を学生たちに紹介します。それは「流行り言葉を作る」こと、もう一つは「みんなの気持ちを代弁する」ことです。こちらでも事例を取り上げながら、実践する方法を話してくださいました。

講義4

多くの事例を紹介する中で、特に千葉ロッテマリーンズの広告を手がけた時の経験が、自分の仕事の原体験となったと渡辺さんは話します。かねてからロッテファンだった渡辺さん。ただ、実際は広告に当てられる予算がなく、頭を悩ませていたそうです。そんな中で渡辺さんが手がけたコピーと広告はたちまちロッテファン、その後他球団のファンからも話題を呼び、成功を収めました。「ファンとして何を言ってほしいか流行り言葉の感覚も、みんなの気持ちの代弁することもファンとしてわかるんです。」そして渡辺さんはこの時、リアルな気持ちを書くこと、分かりやすい言葉で書くこと、そうすればちゃんと人に伝わると確信したそうです。渡辺さんからの素直な気持ち、伝えたい気持ちが溢れている講義となり、前半戦は終了です。

第2部:ワークショップ「美味しさを伝えるキャッチコピー」

ワークショップ1

渡辺さんが今回用意したワークショップのお題は、「最近食べた中で一番美味しかった食べ物を、とにかく美味しそうなキャッチコピーにしてください」という、実際にコピーを考えるワークショップです。「難しく書くことと、文章がうまいことは、完全に別物です!」と断言した渡辺さん。まずは、どの食べ物を取り上げるか?その食べ物を、どんな作戦でインパクトある言葉に仕立てていくか?その言葉の面白さがちゃんとみんなに伝わるか?これらを踏まえて受け手の共通の価値観が現れるコピーを考えます。制限時間は20分。珠玉の1 本を紙に書いて提出します。

ワークショップ2

20分が経過したのち、皆さんからコピーを書いた紙を回収していきます。渡辺さんが参加者約70名分のコピーをざっと一通り見ていき、最終的に5 本のベストコピーを選びました。優秀なコピー5 本の発表の前に、渡辺さんが「おしい!」と感じたコピーを幾つか発表しました。コピーで伝えたい食べ物は餃子、カニ飯、唐揚げ、焼肉…など様々。発表したコピー一つひとつに対し、渡辺さんが質問を投げかけます。コピーで伝えられなかった意味があったり、実は別の意味だったという回答に、渡辺さんからツッコミが入り、会場は笑いに包まれます。

ワークショップ3

いよいよ優秀コピー5 本の発表です。まずはお酒のコピー「酔える香水」。渡辺さんは「完成度が高くて美しい。頭に残るホットワードです!」とコメント。次は「溢れ出る台湾!」という小籠包のコピー。一瞬で美味しさが伝わります。次は、渡辺さんが意味が全くわからなかったので選んだというこのコピー。「母さん こんなの どこでおぼえたの?」。最近母親の料理が劇的に美味しくなったと話す作者の学生。しかし実はそれは某中華レトルト商品だったというオチ付きで、渡辺さんも「それは切ないね!」と苦笑い。次は長めのコピー「ハム、タマネギ、タマゴ、ごはん、塩胡椒少々に中国四千年の歴史が詰まってる。」大きいスケール感が好印象です。最後に発表されたのは、うどんのコピー「過炭水化物」。とにかくインパクトが大きい!と渡辺さんも絶賛でした。

総評

ワークショップを終え渡辺さんは、「全て選べなかったけど、一つひとつにツッコミどころがあってよかったです。短い時間にぎゅっと脳みそ使うとき、気持ちいいですよね。ぼくはそれをずっと楽しんでいます。」とのこと。最後に、渡辺さんから講評です。コピーに限らず、平均点を取りに行こう、失敗をしないようにしようと思った時点で負け!自分らしさに振り切ることが重要だと渡辺さんは続けます。「個性とは演出するものではなく、にじみ出るもの。その個性が自分のコピーに一貫性を生みだします。だから自分が生きてきたすべてのことが全部大事。自分の感情を知り、記録する術が必要になります。」「最後に言いたいのは、人に伝えることは面白いこと。言葉を考えることを楽しむこと、これだけは、絶対に忘れないで下さい。」