PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「文字 学び 好奇心」

グラフィックデザイナー/アートディレクター

柿木原 政広 氏Masahiro Kakinokihara

PROFILE
グラフィックデザイナー/アートディレクター。1970年広島県生まれ。1996年ドラフト入社。2003年 JAGDA 新人賞を受賞。2007 年、森美術館『日本美術が笑う』展のアートディレクションでADC賞を受賞する。同年、株式会社10(テン)を設立。singing AEON、富士中央幼稚園、映画「トニー滝谷」、TIFF 東京国際映画祭 生活雑貨店「ROU」や新宿の複合施設「NEWoMan」5F『LUMINE 0』のロゴやコンセプト映像のデザイン・アートディレクションを手がける。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「文字 学び 好奇心」

講義1

柿木原政広さんは今回のプレックスプログラムで2回目の登壇です。第一線で活躍されているアートディレクターの方とあって、開始30分前から席が次々と埋まり今回も大盛況!参加している学生からは、柿木原さんのクリエイティビティのエッセンスを得ようと気合が伝わってきます。中には、「前回が楽しかったので!」と初回に登壇されたプログラムに参加したリピーターの学生たちもいました。今回はどのような楽しいプログラムになるのでしょうか。

講義2

まずは、柿木原さんの経歴とこれまで手掛けたデザインワークの紹介です。様々なデザインを手がける柿木原さんは、中でも美術館からの依頼が多いそうです。美術館で扱う作家について、学べることが楽しいと語る柿木原さんは、「作家の世界観を伝えるために、グラフィックや文字を使いますが、僕は文字を扱う方が好きです」とのこと。この言葉は後半のワークショップへの布石となります。また、柿木原さんがデザインで大切にしているワードは「好奇心」と「学び」。デザインという漠然とした像を掴むには、自身の「好奇心」で、さまざまな情報を学ぶことが必要です。学ぶことで、デザインする対象が、立場により見え方が変わることを知ります。この見え方の違いを知ることこそが重要だと柿木原さんは続けます。

講義3

ドラフト所属時代に当時の柿木原さんは、植原亮輔さんや水野学さんなどの実力派の同僚と共に働きながら、この環境の中で生き残るため何をすべきか強く考えてきました。生き残るには自身のストロングポイントを伸ばさなければならない、そんな中で柿木原さんが見出した自身の強みは、コミュニケーション力でした。大学時代のサークル活動でのやりとり、就職後もクライアントとの交流を通じて、相手の思いを察する力が他よりも高いと気づきました。これまでネガティブに捉えていた自身の経歴、美大出身ではなく一般過程の大学出身であることが、考え方によりポジティブになることを伝えた柿木原さん。学生も同じ境遇である人が多く、勇気付けられる内容でした。

講義4

また、制作エピソードとして「富士中央幼稚園」のアートディレクションについてお話し下さいました。この案件では、ドラフト代表である宮田識さんからの言葉をきっかけに、柿木原さんは自分の今進めているデザインの「本質」とはなにかを強く考えていました。幼稚園の本質とは?見出した本質は「お母さん」でした。幼稚園に通うお子さんはお母さんがみんな大好き、幼稚園と子供たち、そしてお母さんの関係性が重要なのではないか。アートディレクションをする上で、本当に本質がデザインに現れているのか、このことに初めて気づけた案件だったと話します。また、富士中央幼稚園の園長さんや近所のパン屋さんとのエピソードなど、学生に向けて楽しそうに話される柿木原さん。朗らかな姿がとても印象的でした。

第2部:ワークショップ「タイポグラフィ」

ワークショップ1

第2部のワークショップは、タイポグラフィを扱います。まずは柿木原さんから学生へ、お題に漢字1文字を与えられます。「河」「手」「青」「争」「食」、これらどれか1文字を与えられた学生たちは、「割り当てられた漢字1文字を、その漢字のニュアンスで表現する」というものでした。もともとの漢字がわかるように、かつニュアンスが伝わるように、白紙いっぱいに学生は描き始めますが、描こうとするとなかなか難しい!描き終わり、皆一斉に挙げてもらうと、バラエティに富んだ回答に。みなさん、アイデアを出すことに悪戦苦闘したようです。

ワークショップ2

次に、スクリーンに映された「河」「手」「青」「争」「食」の明朝体、ゴシック体を、見たまま綺麗に白紙にレタリングしてもらいます。先ほどの感覚的でニュアンスを表現するのではなく、漢字1文字を見たまま形を崩さずに、漢字の形のディティールに注目しながらレタリングをしていきます。「漢字に敬意を払いながら、文字の構造に注目してみてください」と柿木原さんは学生たちに声をかけます。何気なく普段見ている漢字が、よくみるとそれぞれ形に必ず個性があることに気づきます。文字を見つめながら、慎重に書いていく学生の目も真剣です。

ワークショップ3

最後に、1回目に描いたニュアンス重視の漢字1文字と、その後2回目に描いた綺麗にレタリングされた漢字1文字、これらを踏まえた上で改めて、「その漢字の形を崩さずに、ニュアンスを含ませて描いて表現する」ことを学生に行ってもらいました。この一連の流れは、最初の表現重視で右脳的な要素を使い、次に構造を理解し左脳的な要素を使ったあと、これらをうまくデザインに落とし込むためのトレーニングであるといえます。完成した1文字は、1回目や2回目よりも洗練されているようにみえます。文字1文字でも、デザインワークの基本は学べることや、文字の奥深さを学生は体感できたのではないでしょうか。

総評

ワークショップで行った今回のトレーニングは、柿木原さんも普段の仕事で常に行っていると話します。最後は柿木原さんの最新のお仕事のデザインを交えながら、これらの点についてお話しされました。そこで手がけられた実際の文字のデザインがスクリーンに映されると、学生から思わず「おぉ〜」という歓声!文字の美しさを生かしながら、ニュアンスを組み込むデザインであるとみなさんが納得した瞬間でした。コミュニケーションという軸をもちながらどのようにつたえるか、人に共感してもらえるデザインには、このようなプロセスがかならず含まれていることを、柿木原さんは今回のプログラムで教えてくださいました。