PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「旅、建築、ドローイング」

建築家

光嶋 裕介 氏Yusuke Koshima

PROFILE
光嶋裕介建築設計事務所代表。建築家。一級建築士。1979年、米ニュージャージー州生まれ。少年時代をアメリカや日本で過ごし、中学はカナダ、イギリスに滞在。高校から再び日本に。代表作品に《凱風館》、《如風庵》、《旅人庵》など多数。2013-15年、NHK WORLD「J-ARCHITECT」の番組MCを担当。2014年、「ガウディ×井上雄彦」特別展の公式ナビゲーターを務める。2015年、ASIAN KUNG-FU GENERATION の「WONDER FUTURE」全国ツアーの舞台デザインとドローイングを提供。著作に『みんなの家。』(アルテスパブリッシング)、『幻想都市風景』(羽鳥書店)、『建築武者修行』(イースト・プレス社)、『建築という対話』(ちくまプリマー新書)、『増補 みんなの家。』(ちくま文庫)、『つくるをひらく』(ミシマ社)。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「建築家とは」

講義1

アメリカで生まれ、ほとんどを海外で過ごした光嶋さんが、建築家になりたいと思ったのは18歳の頃。“ 空間” という言葉の意味さえもわからない状態でしたが、ル・コルビジェがスケッチしたアテネのパルテノン神殿を見て、描かれた線がただの視覚的な情報ではなく、ある解釈を重ねたものだと感じ、その空間性を自分で感じるために一人旅へ出ました。この旅に出るという行為こそが、「結果的に一番勉強になった」と言います。

講義2

「正確な情報を視覚的に切り取る写真に対して、スケッチは写真より不正確な情報でも、時間がわかる絵日記」と言うように、光嶋さんは旅先で目の前にある建物を、どうして屋根はこの形なのか、どうして窓はこの素材なのか、とスケッチをしながら「建築の本質」を考えるそうです。ただ古い時代と新しい時代が対比、または上書きされていくのではなく、スペインのアルハンブラ宮殿のように、その時代の価値観が同居していく「記憶の器」、そして「数値化できないメッセージ」を発信しているのもまた建築の魅力なのだと語ります

講義3

師匠である石山修武さんの元で過ごした6 年間から建築の面白さを学び、好きな建築家にラブレターを送ったことがきっかけでド 「伝えたい自分の部屋の魅力」イツで4年間仕事をすることになりました。ドイツでは、常識を覆す建築の在り方を学んだ光嶋さんは、2008年に帰国し独立。「内なるものをアウトプットするアーティストではなく、僕は建築家です。職人として現場の人たちと一緒に考え、クライアントがどのような空間を欲しがっているかという『外への意識』を持ってつくっています。そういう意味で、建築家は指揮者、そして作曲家の両方です。人と対話をして作り上げていくので、情報の発進力が問われる職業でもあります」。

講義4

そして、色々なものが同居している状況を画で表現したドローイングもご紹介いただきました。この“Connected Borders 境界線をぶつけるような建築” や文章を書く時間は、光嶋さんにとって考えをめぐらせる時間になっているそうです。『日本が赤ならアメリカで生まれた僕はピンク、そしてヨーロッパは青。青の本質を知るためには、ピンクは青の中にダイブしなくてはいけない。そのためにはコミュニケーション能力や、何か一つ“ オタク” になれる要素というのも必要です。』限られた時間の中で、受講生一人ひとりに何が響くのか、様々な想いを発信していただきました。

第2部:ワークショップ「伝えたい自分の部屋の魅力」

ワークショップ1

本日のお題は「部屋の図解」。某雑誌が“ クリエイターの部屋” という特集を組んだとして、自分の部屋の図解を描き、その魅力をプレゼンするという内容です。「部屋」という空間には一人ひとりの個性が宿っているものなので、それを分かりやすく伝えるイラストや文字など、表現方法は自由です。作業時間は30 分弱。その後、A 〜 F のグループに分け、一番良いものを代表者がプレゼンします。初対面の人が多い中、ある意味自分をさらけ出すような課題に、良い緊張感を感じます。

ワークショップ2

解は、グループ内でも何が良いのかなかなか判断が難しそうでした。イラストだけで表現した人、または文字を多く書いて説明した人など、部屋に対する興味の違いが同じ一枚の紙からも感じられました。多数決をとるグループもありましたが、最終的に、絵が上手い人や分かりやすい図解が代表に選ばれていました。

ワークショップ3

いよいよ発表です。引っ越した当初からを時間軸で表した部屋、細々とした物が溢れる100%趣味の部屋、魅力を伝える構図を選び、文字を使わずイラストのみで描いた部屋、好きな物たちに占領された部屋、そして部屋ではなくトイレを描いた人など、表現方法や着目点からも個性を感じられました。他にも、ボディ・マインド・ソウルというコンセプトの元、必要以外のものを削ぎ落として生活をするという独特なスタイルの人や、子どもの頃を思い出す理想の部屋を描いた人もいました。

総評

一人ひとりに対し、光嶋さんから感想が贈られます。「建築は五感すべてに影響します。自分のカラダが全ての大事な物差しになるので、普段住んでいる空間をよく理解しているかどうかもわかります。物に対する想いや空間認知力の高さ、そして空間が物の集合体であるということを表している良い例など、面白いものがありますね」。そして、最後に著名人のアトリエからも部屋の解析をし、まとめへ。「身体の延長としての部屋の在り方は、それぞれの記憶と関係性がつくります。そこに他人の視点があるかないかで大きく変わってくるのです。僕は、他者と対話しながらこういった関係性を考え、その人にあった建築をつくっていきたいと思っています」。