PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「観察力、判断力、瞬発力。」

グラフィック・デザイナー

トール 至美 氏Yoshimi Towle

PROFILE
グラフィック・デザイナー。1990年多摩美術大学グラフィック・デザイン専攻卒。株式会社創美企画にグラフィック・デザイナーとして勤務後、1993年独立。以降、パイオニアLDC株式会社(現ジェネオン・ユニバーサル)他、ソニー・コンピュータ・エンタテイメント、パラマウント・ジャパン、EDOYAレコード、アンリミテッド・レコード、EMIジャパン、他出版社との直取引により多数の映画DVD・音楽CDジャケット、広告制作を行う。また食品業界とも関わりが深く、店舗CIやレシピ・ブック、料理誌への出稿多数。2008年、絵の具と直感を用い、デザインの愉しさを伝えるワークショップDesign by Accidentを企画、タリーズとのコラボにて実現。東京デザインプレックス研究所講師。

第1部:トークショー「一(いち)グラフィックデザイナーとして」

講義1

本日のプレックスプログラムは、本校でも教鞭を取られているグラフィックデザイナー、トール至美先生をお迎えしての授業です。スポーツ少女だった中学時代を経て「最初の分かれ道でした」という高校での美術の選択。「作品を見るだけでどきどきした」というアンディ・ウォホールに多大な影響を受けた美術予備校時代を経て美大へ。そして4年生で学んだ広告の授業で「たった一枚の新聞広告の紙面から、一冊の小説を読んだような余韻を受けました」という程の感動をし、広告への道に進むことを決意したそうです。

講義2

在学時代に経験した広告制作プロダクションでのアルバイトは、カッターや定規の作業、清刷からの文字組みなどの下積み時代を経験。そうするうちに初めて会社に導入されたMacには大変な衝撃を受け、技術の革新を肌で感じたそうです。「苦労はしたけど、この時に憶えた書体の名前とか、字詰め、字組みなどはずっと私の財産になりました。今みたいに簡単じゃないことが逆によかったのかと思っています」との言葉はアナログとデジタルの双方を経験したデザイナーならではのお話だと感じました。

講義3

制作の仕事をこなしつつ、音楽イベントのフライヤーなどを作り続けていたトールさん。その中で音楽フリーペーパーのデザインを任されたことで、Macでのデザインに夢中になっていったそうです。紙面デザインの給料変わりとして掲載したご自身の広告にレコード会社からの依頼があり、ギタリストChar氏のCDジャケットのデザインをしたことが、フリーランス転向のきっかけとなったそうです。念願だったエンタメ業界のデザイナーとなり、その後15年で誰もが目にしたことのある数多くのデザインをされました。

講義4

「私は自分のことをアートディレクターと絶対に言いません。ずっと自分の手を動かしていたいのでグラフィックデザイナーと名乗ります」というポリシーを持つトールさんの作品紹介へと講義は進みます。DVDやCDのジャケットデザインに始まり、エディトリアルまで数多くのデザインワークは見ごたえたっぷりです。映画『シュレック』のジャケット制作では、「アメリカから届いた世界最先端のCGデータは本当に目から鱗でした。その見たことないようなデータが、私にとって本当に勉強になりました」と当時の驚きが語られました。

講義5

しかし次第にあまりの多忙さに、デザイナーを休業することを決意。「何でデザインを始めたんだっけな、と考え始めて線画で絵を100枚以上描いたと思います。描いていることですごく落ち着いていた」という過去が語れます。その後、絵画教室のアシスタントをする中で子供の絵を見て力を取り戻し、講師としてもデザインに関わるようになり、現在に至ったとのこと。「何を言えば伝わるのかというのは、まさにデザインと一緒。そこで俯瞰して今までのことをおさらいしたようです」という講師業への想いをお聞きし、プログラムの前半は終了です。

第2部:ワークショップ「きおくスケッチ」

ワークショップ1

本日のワークショップは「きおくスケッチ」です。用意されたお題に対して、記憶のみを頼りに描くというなかなか難易度の高いワークショップ。「デザイナーはクライアントに対して、何もないところから形にして見せるわけです。そういった困難な仕事をするうえで、普段から物を見るという目を変えて欲しい思い、そのきっかけになることを願って企画しました」との意図が提示されます。出題はデザイナーらしく、有名企業のロゴマークからゆるキャラ、動物まで幅広いもの。曖昧な記憶との対峙は、果たしてどんな作品を生むのでしょうか。

ワークショップ2

実際に描き始めてみると、記憶のアウトプットする難しさに苦しむ受講生たち。しかし「記憶にないからこそ出てくるクリエイティブさも楽しんでください」という言葉で、悩みながらも楽しんで取り組む姿が見られました。
そしてチームから代表者の6人が選ばれ発表となります。クオリティの高い作品が並ぶ中、教室がどよめく程に各企業のロゴマークを完璧に記憶していた受講生も、動物や人物には苦戦しているなど、得意分野の違いを感じます。中にはトールさんすら知らなかった正解を描いた作品もあり、大いに教室が沸いた発表でした。

総評

発表が終わり、自分の知らなかった特性を感じた受講生も多い中「きおくスケッチは何度かやっているとはまります。意外にすごくよく描けるものが出てきたりして楽しいです。今日はロゴマークなどデザイナーらしいものをやりましたが、もっともっと日常的に目にするものもあるので試してみてください」と、日頃の「物を見る意識」の大切さを感じる総評を頂きました。デザインをするだけではなく、デザインとの関わり方も大いに学んだ講義。トール先生、本日はありがとうございました!
Text by 東京デザインプレックス研究所修了生
久保隆平