PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「クリティカルデザインで創造する未来」

現代アーティスト

スプツニ子! 氏SPUTNIKO!

PROFILE
アーティスト/東京藝術大学デザイン科准教授。1985年生まれ。インペリアル・カレッジ・ロンドン数学科および情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院(RCA)デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。RCA 在学中より、テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を反映させた映像イ ンスタレーション作品を制作。最近の主な展覧会に、2019年「未来と芸術展」(森美術館)、「Cooper Hewitt デザイントリエンナーレ」(クーパーヒューイット、アメリカ)、「BROKEN NATURE」(第22回ミラノトリエンナーレ、伊)、2017年「JAPANORAMA」(ポンピドゥーセンターメス、仏)2016年「第3回瀬戸内国際芸術祭」(ベネッセアートサイト直島)、「NEW SENSORIUM」(ZKM アートセンター、ドイツ)、「Collecting Future Japan –Neo Nipponica」(ビクトリア&アルバート博物館、イギリス)など。2013年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教に就任しDesign Fiction Groupを率いた。現在は東京藝術大学デザイン科准教授。VOGUE JAPANウーマンオブザイヤー2013受賞。2014年FORBES JAPAN「未来を創る日本の女性10人」選出。2016年第11回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本特別賞」受賞。2017年世界経済フォーラム「ヤンググローバルリーダーズ」、2019年TEDフェローに選出。著書に「はみだす力」。

第1部:講義「クリティカルデザイン=「?」を生むためのデザイン」

講義1

今回は現代アーティストとして、世界各国を飛び回るスプツニ子!さんをお迎えしてプレックスプログラムを行いました。まずは2010年に発表し、YouTube で1週間で全世界10万以上の人が観た「生理マシーン、タカシの場合」についての解説から。「何故まだ人間に生理という現象が起きるのだろう?」。こんな疑問から始まったこの作品の背景にはテーマにも挙げた「クリティカルデザイン」が含まれています。また大学の卒業制作だったこの作品は翌年にはMoMA(ニューヨーク近代美術館)に展示されるなど、スプツニ子!さんを世に広める作品となりました。

講義2

続いては翌年に発表した「カラスボット☆ジェニー」。「テクノロジーは人間と自然を切り離すものではなく、近づけるためにあるのではないか?」常々そう思っていたスプツニ子!さん。そこで英国のケンブリッジ大学等の動物学者に「動物と話したい!」と直談判し、学者からお奨めされたのが、カラスだったとのこと。そんなスプツニ子!さんの想いを具現化したのがこの作品です。

講義3

「今日はバイオテクノロジーを扱うので…」という前置きの後、紹介してくれたのがその名も「チンボーグ」。自分でコントロール出来るようで出来ない部位に興味があったので、心拍数によって変化する身体代替品を作ったそうです。

講義4

一通り作品の紹介が終わった後は、今回のテーマでもあるクリティカルデザインの解説です。「問題解決がデザインの定義としたならば、クリティカルデザインは問題提起です。言い方を変えると“各々にとって望ましい未来”を議論することです」。スプツニ子!さんが代表的なクリティカルデザイナーとして紹介したのが「ドラえもん」!会場が一気に湧きます。未来の道具を出し、それが全ての人にとって有益ではないところに意義があると説明があります。「クリティカルデザイン」と「ドラえもん」を合わせての造語「ドラディカル・デザイン」を推し進めていくそうです。

第2部:ワークショップ「バイオテクノロジーとデザインの未来」

ワークショップ1

今回スプツニ子!さんと共にお招きした現役医学部学生の皆さんに「バイオテクノロジー」に関して3つのトピックスを説明していただきました。その3つとは①人工テレパシー②手術用ロボットの遠隔操作③クローン技術です。あまりのバイオテクノロジーの進化に、学生たちは唖然とした表情で聞き入ります。そのトピックを元にしてのグループワークショップに突入です。

ワークショップ2

ワークショップは学生10人+医学生2人の12人で5チームになって編成されました。チームごとに「バイオテクノロジーとデザインの未来」について議論し、その後全体に発表します。医学生から先ほどのトピックスの補足があり、その後、学生から「これは可能なんですか?」「こういうのやってみたいんですけど既にありますか?」等々の質問があり、医学部生達がそれに答える形でディスカッションが進んでいきます。ディスカッション時間はスプツニ子!さんの提案でわずか30分。集中して取り組んでいる内にあっという間に全体発表の時間になってしまいました。

ワークショップ3

まずトップバッターのチームが提案してきたのが「新臓」です。今までの五臓六腑ではない臓器を個々人で選べるというものです。例えば植物や動物の特徴を模した臓器を付け加えることで、今まで行けなかった場所に行けたり、できないと思われていたことができるようになるというアイデアです。続いては「テレパシー社会」の提案。クリティカルデザイン的に、病気で寝たきりの方でも意思疎通ができるという良い面と、独裁者による洗脳に繋がるのではないかという悪い面、両面からの発表がありました。その他、お坊さんが難行苦行の上に達した悟りをそのままテレパシーとクローン技術を融合させることでいただいてしまう「サトリ・エレクトロ」。同じく上記3つのバイオ技術を組み合わせて知能的に完璧な人間を造り上げてしまう「スーパー人間君」。人間の目を取り外しソケットにして、遠くのモノや人が行けないところをリアルに見る技術。有名人に着せ替え人形感覚でなれる技術等々、あまりにも突拍子もないアイデアの連発にスプツニ子!さんも思わず「グループ展やろうよ~」と叫び、グループワークは最高潮の盛り上がりで終了となりました。

総評

一緒に議論に参加した医学部生からは「私たちとは全く違う観点からの発想がとっても面白かったです。」との声がありました。最後にスプツニ子!さんから「今日は短い時間にも関わらず、未来のデザインが沢山出てきて、そのどれもがクリティカルな要素を持っていることに感動しました。デザイナーはもっとバイオに関わって欲しい。技術者が発想しえないアイデアがこんなに出てくる場面に出くわすとそう思わずにいられないです。」と熱いメッセージをいただきました。