PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「”迂回する”デザインとは」

Puddle代表/建築家

加藤 匡毅 氏Masaki Kato

PROFILE
工学院大学建築学科卒業後、隈研吾建築都市設計事務所、IDÉEを経て、2012年にPuddle 設立。これまで15を超える国での建築・インテリアを設計。各土地で育まれた素材を用い、人の手によってつくられた美しく変化していく空間設計を通じ、そこで過ごす人の居心地良さを探求し続ける。主な作品として「TSUCHIYA KABAN KYOTO」「DANDELION CHOCOLATE」「AGNÈS B. JAPAN Head office」「sequence MIYASHITA PARK」「IWAI OMOTESANDO」等。「カフェの空間学 世界のデザイン手法」、「カフェの設計学 計画とディテール」を出版。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義 「迂回するデザインとは」

講義1

今回は、1年半ぶり2回目のご登壇となる、Puddle代表/建築家の加藤匡毅さんをお迎えします。「心地よい空間体験をつくること」を目的に、カフェ、レストラン、ホテル、オフィス、駐車場など、加藤さんの活躍の場は多岐にわたります。今回のテーマは「迂回するデザインとは」。本来の道を行かずあえて遠回りをすることを意味する"迂回"に着目し、最短では辿り着けないからこそ生まれる価値や体験についてお話しいただきます。

講義2

加藤さんが「迂回」という言葉に着目したきっかけは、吉江俊さんの著書『〈迂回する経済〉の都市論』です。本書では「迂回」の対比表現として「直進」が挙げられており、「直進する経済」が土地にテナントを入れ、家賃収入などを最大化することで短期間で利益に直結するのに対し、「迂回する経済」は土地や周辺環境の整備、地域活動の支援など、直接的には利益に結びつかない取り組みを重ねながら、最終的に企業の利益へとつなげていく考え方とされています。一見、無駄にも思える遠回りが、のちに価値として効いてくる点に迂回することの意味があると加藤さんは語ります。

講義3

そんな「迂回する空間デザイン」の一例として、加藤さんはフランス・パリに本社を持つアニエス・ベーの東京本社リロケーションプロジェクトを紹介しました。直進的な発想をすれば、「働きやすく、効率的なオフィス」をつくることでクライアントの要望には応えられます。しかし加藤さんは、あえて迂回するデザインとして「オフィスの中央にアトリエをつくりましょう」と提案。当時、モノづくりの原点であるアトリエはオフィスの一番奥にあり、身近な社員でさえ立ち入る機会がほとんどないという状況だったそう。

講義4

世界中で販売されている商品の多くがこのアトリエから生まれているにも関わらず、その現場が十分に意識されていないという状況に違和感を覚えた加藤さん。そのため、他の場所を削ってでもアトリエをオフィスの中心に据えることを提案します。さらに、そのデザイン過程では床(OAフロア)を剥がして掘り下げ、色味などはアニエスの初代アトリエを参考にするなど、”原点を掘る”というテーマのもとプロジェクトを進めていったそうです。

第2部:ワークショップ 「身近にある迂回するデザイン。まだ見ぬ迂回するデザイン。」

ワークショップ1

後半のワークショップでは、二つの問いが提示されました。一つ目は「世の中にある直進と迂回の事例を探す」というもの。これに対し、ある学生は「歩道橋」を例に挙げ、「横断歩道ではなくあえて歩道橋を選択した時、下を走る車を眺めたり、行き交う人を観察したりと、新鮮な気持ちを味わった」と身近な体験談を発表。「“迂回する”とは、“視座を変える”ことでもあります。視点を変えること自体が迂回することに繋がるポイントの一つです」と加藤さんは答えます。

ワークショップ2

二つ目の問いは「まだない(かもしれない)直進と迂回のサービス・空間・デザインを考える」です。ある学生は「電車の乗換案内」に着目。「乗換案内を調べると、早く帰る順路が優先して表示されますが、逆に”ゆっくり座って本を読みたい”といった個人の希望に合わせた迂回検索をかけられたら面白いと思います。」加藤さんは「日常に潜んでいる最短を目的とするものから逆張りを考えた時、自分たちに何がもたらされるのかを考えるのも面白いですね」とコメント。

ワークショップ3

複数人で意見交換をした学生からは、「好きな曲を探す時、同じことをしても人によっては迂回、人によっては直進と、感じ方はそれぞれだと気づいた」という意見が。一人が「音楽配信サービスからおすすめとして流れてくる曲の中で、新しく気に入る曲との出会いを待つ」という迂回の例を話したところ、もう一人は「私の世代ではCDを買うまで中身が分からず、気に入る曲があるかはアルバムの全曲を聞くまでは分からなかった。自動で自分の好みに基づいた曲が流れてくるのは迂回ではなく直進だと感じる」と話したそう。「直進はAからBという単純なものと思っていたけど、他のパターンもたくさんありそうですね」と加藤さん。

総評

最後に総評をいただきました。「皆さんは普段、少しでも早く目的地に着くためのルートを探したり、家に帰れば無意識のうちにいつものルーティンをこなしたりしますよね。そうした日常を無理に変える必要はないですが、ふとした瞬間に今日は迂回してみよう!と思い出してもらえたら嬉しいです。それだけで今日この場に集まった意味があると思います。」迂回することで得られる価値や体験は、デザインするうえで新たな視点のヒントとなりそうです。加藤さん、ありがとうございました。