PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「ビジネスデザイナーの思考法」

kenma代表/ビジネスデザイナー

今井 裕平 氏Yuhei Imai

PROFILE
神戸大学大学院を修了後、安井建築設計事務所、日本IBM、電通コンサルティングなどを経て、2016年に株式会社kenma創業。 企業の見過ごされた強みを発掘して、その会社の看板商品・サービスを創り出す 「フラッグシップデザイン」を提唱 。代表作のメモがわりに使えるリストバンドwemoは100万本を超える大ヒットを記録。その他、コクヨ初の賃貸住宅事業「THE CAMPUS FLATS Togoshi」、吸水スポンジタオル「STTA」、伊勢茶ボトルレンタルサービス「朝ボトル」など、数字で成果を示すことにこだわり、これまでにないユニークな商品・サービスを仕掛けている。 グッドデザイン賞をはじめ、IAUD国際デザイン賞、フェーズフリーアワードなど社会課題解決を対象としたデザイン賞を多数受賞。東京都「デザイン経営スクール」総合監修・講師。2024年「ヒット商品を次々と生み出すデザイン会社」として、テレビ東京『カンブリア宮殿』に出演。東京デザインプレックス研究所 ビジネスデザインラボ ジェネレーター。

第1部:講義「ビジネスデザイナーの思考法」

講義1

本日のプレックスプログラムの講師は、kenma代表/ビジネスデザイナーの今井裕平さんです。今井さんは大学で建築を学び、設計事務所に勤務した後、経営コンサルタントを経て現在に至ります。デザインとビジネスコンサルの両方のご経験をお持ちの今井さんは、デザインのみでなくコンサルティングやマーケティング等の事業に必要な一連の流れを統括した「ビジネスデザイン」を提唱されています。本日は、当校のビジネスデザインラボのディレクターとしても活躍している今井さんに、ビジネスデザインの思考法を事例を交えてお話しいただきます。

講義2

今回の講義でキーワードとなるのは「成果ファースト」です。「狭義では意匠、広義では問題解決と言われているデザインですが、意匠の場面では『完成度(Output)が高いか低いか』、問題解決の場面では『成果(Outcome)が出ているかどうか』が重視されます。しかし、デザイナーがどれだけ問題解決に取り組んだとしても、消費者は完成度の高さで判断する傾向があると今井さんは言います。その矛盾を無くすためには、どうしても成果ファーストにならなければならず、成果を出すためには完成度の高いデザインが求められます。

講義3

これまで今井さんが実施したプロジェクトでは、明確な成果を見ることができます。コロナ禍の影響で売り上げが激減した「緑茶カフェ mirume 深緑茶房」では、移転リニューアルに伴うリブランディングを実施。店舗が通勤客が多く通る場所にあるという点と、テイクアウト需要にフォーカスを当てた結果、「朝ボトル」を考案しました。朝ボトルは、出勤時に店頭で水出しの緑茶ボトルを購入し、職場で水を継ぎ足しながら緑茶を飲み、帰りにボトルを返却するというシステムです。このプロジェクトにより、客数の確保や商店街通行者との関係構築など数多くの課題を解決し、売り上げはV時回復を果たしました。

講義4

また、吸水スポンジのメーカーであるAIONで考案したスティック状タオル「STTA」は、使用済みハンカチをポケットに戻す際などの水滴ストレスにフォーカスを当てたPRにより、1週間で初回在庫完売という成果を上げました。ビジネスデザインでは、新規事業の過程を創造・立ち上げ・拡大に至るまですべての工程に携わることが重要ですが、ビジネスフェーズに至っては、プライシング(製品やサービスの価格を決めること)、販路開拓、展示会選定、営業戦略、業務提携アレンジ、収支計画、投資判断なども行うという今井さん。「ロジックだけでなく、重要なのは人を惹きつけるデザインとしかけです。」

講義5

さらにビジネスデザインは、”面白い”かつ”多くの人にウケる”の両方のアイデアを考えるというルールがあるそうです。「”面白い”と”大衆にウケる”は相反するものですが、どのようなプロジェクトであっても、ルールを正確に理解し攻略するための糸口を見つけるという作業が必要です。コツとしては、①まずはユニークなアイデアを考える、②多くの人にウケるアイデアを選ぶor仕立てるという流れで、①と②を何度も繰り返します。」この時、何をもってユニークとするか、どうすればプロジェクトは成功・失敗なのかという物差しを作ることも重要になります。

第2部:ワークショップ「新しい事業をデザインする」

ワークショップ1

後半は、今井さんがお仕事で実際に使用されているビジネスデザインのフレームワークを活用しながら、全員でワークショップを行います。テーマは、「東京デザインプレックス研究所の新しい事業をデザインする」です。まずは今井さんのお話にあった通り、事業の「成果」を学生一人ひとりが設定し、結果の良し悪しの基準を作ることから開始していきます。学生は論議しながら、自らが考えた成果を発表していきます。

ワークショップ2

その後は、今井さんのビジネスデザインのフレームワークに従い1つ1つの工程を実践していきます。工程の中で、ワークショップの成果の対象である学生を2つに分類する作業があり、多種多様な学生をどのような観点で2つに分けるのか、非常に苦戦したシーンも。学生同士で対話しながら、今井さんとも何度も議論を続けながらなんとかアイデアを生み出し、ワークショップは終了しました。

総評

最後に今井さんからメッセージです。「繰り返しますが、ビジネスデザインの目的は、何よりも成果を出すことです。いくらクオリティーが高くても、成果が出ないものは淘汰されてしまいます。成果を出せるデザイナーが多く生まれて欲しいのですが、まだまだ世の中には少ないと感じているので、今日の話を聞いて興味を持った方はぜひ先駆けになってください。どんどん学びを深めて欲しいと思います!」今井さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。