PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「デザイナーの自立・独立」

株式会社タガス代表/デザイナー

浅野 桜 氏Sakura Asano

PROFILE
デザイナー、株式会社タガス代表、Adobe Community Evangelist。自由学園最高学部卒業。印刷会社、メーカーの販促・PR担当を経て株式会社タガス設立。広告・販促領域を中心に中小企業に向けたウェブ・グラフィックの企画制作業務や、制作業に付随したアプリケーションの研修、講師などを行う。近著に『Webデザイン必携。プロにまなぶ現場の制作ルール84』(MdN)、『はじめるデザイン — 知識、センス、経験なしでもプロの考え方&テクニックが身に付く』(技術評論社)、『今日から役立つアイデアを満載! Illustrator魔法のレシピ』(ナツメ社)等。東京デザインプレックス研究所 WEBクリエイティブ専攻 講師。

第1部:講義「デザイナーの自立・独立」

講義1

本日ご登壇いただくのは当校のWEBクリエイティブ専攻の講師でもある、株式会社タガスの代表取締役社長兼デザイナーの浅野桜さん。印刷物やWeb サイトのデザインのほか、デザインについての書籍の執筆やAdobe Community Evangelist の初代メンバーとしてデザインに関する講演に多数登壇するなど、デザインを教える・伝える領域でもご活躍されています。ほぼ独学でデザイナーとして就職・転職後、ご自身で会社を立ち上げた浅野さんのキャリアは、多くの学生のロールモデルになるのではないでしょうか。学生たちには自身の将来を考えるヒントをたくさんつかんでほしいと思います。

講義2

在学時から待受画像のクリエイターや劇団の宣伝美術として活動していた浅野さんは、卒業後、印刷会社に就職します。残らない、単価に左右されるといった特性のチラシの仕事はやめていく人も多かったそうですが、何回印刷機を回せるかという印刷会社ならではの価値や、表現のオリジナリティを加えられたこともやりがいにつながっていたそうです。リーマンショックを機に化粧品会社のデザイナーに転職。起業を決意し退職するまで、商品パッケージから通販サイトに至るまで会社の全てのデザインワークをひとりで受けもっていたそうです。それぞれの職場で得た今につながるものや、ご自身との相性や働き方について詳しくお話ししてくださいました。

講義3

現在多くの講演に登壇されたり単著を出したりするきっかけとなったのが、浅野さんが共著で執筆したPhotoshop についての書籍でした。この本の著者としてAdobe の番組に出演したことで、さらなる本の執筆や講演につながっていったといいます。「本の執筆は友人のデザイナーがSNSで執筆者の募集をしていたところに手をあげたことから始まりました。本も講演もこの人の役に立つには…という気持ちからやっていて、本はものとして、講演は聴いた人の知識として『残る』のがいいなと思っています。」やりたいと発信することや、伝える相手に真摯に向き合うことも浅野さんのキャリア形成の大きな要素だったことが伺えます。

講義4

起業して独立した理由のひとつに、ライフプランのためにお金と時間を自由に使いたかったと語る浅野さん。フリーランスの働き方は、プライベートと仕事の境を作らずにひとつひとつのことを楽しめるご自身の性質と合っていると感じるそうです。「例えば猫が好きなら猫のお仕事もできます。好きなことが多い人が向いているかもしれません。」質疑応答では働き方や実績の作り方など、学生からたくさんの質問があがります。技術面のアップデートについては「書籍の感想などをSNSで発信すると、自然に情報が集まってきます。インプットするとアウトプットが帰ってくる循環ができるといいですね。」と発信を強みにするアドバイスをいただきました。

ワークショップ:「独立・起業してみよう」

ワークショップ1

後半のワークショップでは、参加している学生自身の独立・起業のシミュレーションのワークショップを行います。学生たちは自分のスキルを書き出し、それらを組み合わせて、どのような業務内容で起業するかをシミュレーションします。「自分のスキルが誰の役にたつのか」を考えることがかなり重要だそうです。また、自分の苦手なことや避けたいことも1つ書き出します。学生からの進路相談の機会も多いという浅野さんならではの項目です。「自分の嫌なことはやりたいことを探す上でも、1つの起点になります。苦手をさらけ出したほうが、なんでもできるとアピールする人より、人間としてバランスがいいですよね。」

ワークショップ2

ワークショップの後半では学生たちが起業シミュレーションを発表し、浅野さんからコメントをいただきます。人のいいところ探しが得意でデザインとコーチングの組み合わせに着目した学生には「デザインの本質はカウンセリングだと思います。デザインとコミュニケーションをうまく一体化できれば独立できると思いますよ。」、沖縄が大好きで地域密着でデザイン領域を盛り上げたいという学生には「地方での仕事は単価が安くなる傾向があるので、東京で起業して値段を落とさずに仕事を沖縄にもっていく流れを考えるといいと思います。」と、かなり具体的なアドバイスもいただきました。

ワークショップ3

今回1番よかった発表をした学生には、浅野さんの著書「はじめるデザイン」が進呈されます。選ばれたのは、前職は農協で牛肉を見る仕事をしていたという学生。自分の経験とデザインスキルで農家さんの独自産業をサポートする仕事にするため、農業にとらわれずに幅広く経験を積むという、これからの展望についても発表してくれました。浅野さんは「業界で探している人はたくさんいると思いますので、マッチすれば面白い仕事ができると思います!」とコメント。「デザインについては自信がなかった反面、今までの経歴を面白いと言っていただけたのがうれしかったです。」と学生から一言。デザインの勉強を始めたばかりだという彼にぴったりの一冊です。

総評

最後に総評をいただきます。「ここで発表していない人も、もちろんみなさん物語をもっていると思います。プレックスプログラムには美大出身のスターのような方が来ていると思いますが、世の中で活躍している人が皆、必ずしもそうではありません。みなさんがモデルケースになるつもりで、健康に気をつけて頑張ってください。継続は力なりです!」講義を通して、キャリアを築くひとつひとつのステップを楽しうにお話しされる様子が印象的でした。学生たちは自分の目標や働き方についても、考えることができたのではないでしょうか。