PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「知っているは、わかっているなのか」

グラフィックデザイナー

梅津 直之 氏Naoyuki Umezu

PROFILE
グラフィックデザイナー/プロダクトデザイナー。1977年生まれ。ニューヨーク州立F.I.T(Fashion Institute Technology)卒業。2012年に世界中のグラフィックデザインとタイポグラフィの歴史的アーカイブを共有するためSPREADを設立。ヨーロッパを中心としたデザインスタジオとのネットワークを構築することで現代におけるデザイン教育の在り方を探求している。

第1部:講義「知っているは、わかっているなのか」

講義1

本日のプレックスプログラムは、グラフィックデザイナーの梅津直之さんをお迎えしてお送りします。梅津さんは当校のグラフィックデザイン専攻の主任講師でもあります。昨年に引き続き、2回目のご登壇となる今回。梅津さんのグラフィックデザイン、タイポグラフィの考え方について紐解いていきます。会場には梅津さんの授業を体験した学生のほか、その圧倒的なデザインに対する知識とタイポグラフィを会得しようと、数多くの学生が集まっていました。今回はどのような興味深いお話を聞く事ができるのでしょうか。まずは講義が行われる数日前に急逝されたタイポグラファーでありデザイナー、ヘルムート・シュミット氏について、氏がデザインに与えた功績についてお話していただきます。

講義2

シュミット氏はオーストリアで生まれ、スイスのバーゼルでエミール・ルーダーのもとタイポグラフィを学びます。その後、日本に渡り、大塚製薬の「ポカリスエット」のロゴアイデンティティや資生堂のお仕事をされました。これらの功績はとても大きかったことに間違いはありませんが、梅津さんの考える最も大きな功績は、こうした誰でも知っているようなお仕事だけではなく、日本に元来ある美意識と日本語への理解を西洋的な視点から、また西洋的な視点と日本の視点を併せ持った上で、たくさんの表現を残してくれたことが最も大きな功績であると言います。それらの成果に対して、われわれは、しっかりと伝えていく役目があると言い、熱のこもった講義が続きます。

講義3

続いては梅津さんのこれまでのお仕事についてお話していただきました。幼い頃からスニーカーが大好きでよく集めていたという梅津先生。その影響からか、いつしか自分もファッションブランドに憧れ、関わりたいと思うようになります。「自分の技術やスキルや表現力を見つめてなんていなく、ブランドに憧れ、ただそこに関わりたい一心でした。」という梅津さん。その純粋な気持ちが実を結んだのが、2007年、パリの老舗ブティック「colette」のためのエクスクルーシブパッケージをナイキとヨーロッパ限定のコラボレーション商品として手がけ、見事ナイキのパッケージを手がけたいという夢を叶えます。

講義4

一見、順風満帆に見えるのですが、自分自身でないブランドとの協業を重ねるうちに梅津さんは、2009年頃から自分に一体何の価値があるか考えるようになってきたと言います。そこで、2012年に世界中のグラフィックデザインとタイポグラフィの歴史的アーカイブを共有するためSPREADを立ち上げます。もともと収集癖を潜在的に持っていた梅津さんは、ブランドなどは一切排除したタイポグラフィの書籍を世界中から集めて読み漁り、もう世の中に流通していないデザインを勉強する上で重要な位置付けになる本を自分で写真を撮り、インターネットを通して世界中に公開していこうと決めたと言います。WEBサイト開設時にシュミット氏にいただいた。「自分に正直に、自分が正しいと思ったものだけを伝えなさい」という言葉を胸に、書籍の販売も行いビジネスとしての役割を機能させていきます。これで前半が終了です。

第2部:ワークショップ「one thing leads to another」

ワークショップ1

後半はワークショップです。今回の課題テーマは「one thing leads to another」。一枚の葉からデザインフィールド(グラフィック、WEB、空間など)において、どういったことに利用、応用できるかを考えてもらいます。一見難しそうな内容ですが、例えば葉の葉脈の構造や葉の主脈を軸とし葉脈の点を水平に結んでみたりなど、葉という一つの対照物からたくさんの発見と考察ができます。この考察を具体的にデザインに応用してもらうのが今回の課題の主旨となります。「発表するフォーマットに制限はありません。自由な発想で葉を別の価値に置き換えてみてください。」と梅津先生。

ワークショップ2

それではいくつか紹介していきます。まず最初の発表者は葉の葉脈の構造を利用した橋や螺旋階段を提案。自身のデザインフィールドが空間ということで、建築物に価値を置き換えたそう。続いては葉の形を抽象化し、グラフィックに落とし込めないかという考えのもと、葉脈構造をベースとした様々なバリエーションの作品を作成。また、角度はほぼ同じに見えるが長さはそれぞれ違うという葉っぱの対称性と非対称性に注目し、新しい照明インテリアの置き方を提案する発表者も。どのアイデアも自分なりの解釈や応用に挑戦し、上手く自分の考えに昇華させている様子でした。

ワークショップ3

まだまだ発表は続きます。続いては都市計画に応用できないかというアイデア。葉脈の構造のような街造りにする事によって水の流れに新しい形が生まれ、災害時などに活躍。また、葉の主脈を軸とし葉脈の点を水平に結んだものを戯曲「ハムレット」のセリフに当てはめてみるというユニークなアイデアも登場し会場は終始大盛り上がりでした。「今回の課題はなかなか意図が分かりづらいと思うのですが、最初から答えがわかっているものって実は大して面白くなく、答えがよくわからない中で面白い答えを誰かが持ってきて、それをみんなで共有することがすごく面白いことだと思うんです。そういった意味でもとても面白かったです!」と梅津先生も興味津々な様子でした。今回のプレックスプログラムを通して、先生のデザインへの情熱を感じることができたのではないでしょうか。

総評

最後に梅津先生から総評です。「一枚の葉っぱからこれだけの考え方があります。タイポグラフィの世界で変わったことをやっている人って、今回のように違うところから知識や技術、考え方を持ってきていたりするんです。文字を右揃え、左揃えとか文字に関しての引き出しが存在するのですが、それ自体をひっくり返した人がオリジナリティを持った人になります。つまりはタイポグラフィの世界で活躍している人は実は外から考え方を持ってきていたりする。そういったプロセス、考え方が身につくようになればこれからの日本のクリエイティブは明るくなると思います。そして今回のプレックスプログラムを通してそんな明るい未来が見えた気がします。」梅津さん、本日はありがとうございました!