PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「だだだだだ-無意味なものの意味と価値-」

建築家

福田 一志 氏Kazushi Fukuda

PROFILE
建築家。武蔵野美術大学/大学院卒業、ヴェネツィア建築大学(イタリア政府給費留学生として)留学、設計事務所勤務を経て、現在一級建築士事務所インターコア代表。専攻建築士(統括設計/まちづくり/教育・研究)、一級建築士、インテリアプランナ一、インテリアコーディネーター、Vectorworksプロフェッショナルアドバイザー。家具から都市計画まで幅広い分野で設計活動を行う。ヨーロッパ・アメリカ・アジアと、海外での生活/仕事での経験を生かし、独自の世界観で時の経過のなかでも風化せず存在し続ける空間づくりに没頭中。近年は、「デザインを行う思考過程の中でどの様にコンピュータとの関係を築くか」などをテーマに、教育の分野にも携わる。東京デザインプレックス研究所講師。http://www.i-core.jp

第1部:講義「だだだだだ-無意味なものの意味と価値-」

講義1

本日のプレックスプログラムは建築家の福田一志さんをお迎えして行います。当校の講師陣の中でもファンが多い福田さん。会場には福田さんの授業を受けた人を始め、数多くの受講生が集まりました。2年ぶり3回目となる今回のテーマは「だだだだだ-無意味なものの意味と価値-」。通常の授業とは異なり、福田先生なりの観点でのデザインとは何か?芸術とは何か?また、芸術とデザインの歴史についてなど普段なかなか聞くことのできないデザインの起源について講義していただきます。

講義2

まずは現代のデザインのルーツを美術史をもとに紐解いていきます。人類が誕生して2000年余り経ちますが、デザインというものはここ100年間で急速に発達したといいます。そしてその起点となったのが第一次産業革命の頃。それまでエンジニアがすべてこなしてきたものが一変、ただ物を作るだけでなく、かっこよさや安全性、売るための戦略なども重視されるようになり、デザイナーが誕生していきます。

講義3

人間は必ず意味をもとめたがる、そう解説する福田さん。そしてその意味や価値は、いつの時代も背景や環境に支配されるといいます。それは政治的な背景だったり、思想的な背景だったり。
もちろんデザインにおいても同じことで、いくつかの建築物を事例に、詳しく解説していただきました。福田先生の巧妙なトークに、美術史が苦手な人たちも興味津々で聞き入っている様子でした。

講義4

また、ダダイズムという芸術運動についてもお話ししていただきました。これはこれまでのお話しと打って変わり、”意味を持つ”ことへの否定的な思想であり、無作為な美を追求します。例えば、ニューヨーク・ダダのマルセル・デュシャンの作品「泉」は小便器を横にして自分のサインをしただけのもので、意図的に美を追求しているものではありません。しかし、その形に美しさを感じるとき、それは無意識の美となるのです。デュシャンは、この作品を通して、見る人の意識に焦点を当て、そしてこの作品により、周りの環境が価値観や美術というものを決めていることを決定付けたと言います。

第2部:ワークショップ「だだだだだ-無意味なものの意味と価値-」

ワークショップ1

後半はワークショップです。今回のテーマは「意味のないものの意味と価値」。前半の講義で、デザインとはその時代の背景や環境によって意味や価値をつけられてきたと学びました。では、まったく背景や環境がない時にデザインはできるかどうか。この問題について実際に手と頭を使って考えていきます。

ワークショップ2

普段デザインする際、色々と思考を凝らしながら行っていると思いますが、今回は何も考えず、無意識で作業していきます。配られた用紙に福田さんの指示のもと、切り分けたり、グループで組み合わせたりして加工していきます。こうして無意識でデザインされた造形物。この会場ではただの紙の寄せ集めですが、これがもし美術館に展示されていたらどうでしょう。たちまちそれは美術品になります。前半の講義でも触れた、背景がその作品の価値を決めているとはまさにこのことで、背景や環境なくしてデザインの価値は生まれないということが実感できたと思います。

ワークショップ3

また、1グループだけ”宇宙船を作ってください”という言葉の意味を与えます。そうしてできた造形物は「宇宙船」という思考が頭に入ることによって、見る人は、自分がこれまで経験してきたことや見てきた視覚情報によって宇宙船の形を想像するといいます。
「人間は意識によってイメージをすごく操作されています。だからこそ視野を広く持ち、色んなモノを見てみて吸収してください!」
人間の内なる可能性、デザインの在り方について再認識できた今回、受講生たちも、いつもと一味違うワークショップに戸惑いながらも楽しんでいる様子でした。

総評

最後に福田さんから総評です。「今回の講義でもお話した通り、物の価値は全て人間が決めていて、その時代時代でデザインに求められるものって変化していきます。だから皆さんもデザイナーを目指すのならば、今の状況がどういう状況なのか、そして今の時代何をやれば周りから求められるデザイナーになれるかをぜひ考えてみてください。」福田さん、本日はありがとうございました!