PROFESSIONAL MESSAGEプロフェッショナルメッセージ

柿木原 政広Masahiro Kakinokihara

PROFILE
グラフィックデザイナー/アートディレクター。1970年広島県生まれ。1996年ドラフト入社。2003年 JAGDA 新人賞を受賞。2007 年、森美術館『日本美術が笑う』展のアートディレクションでADC賞を受賞する。同年、株式会社10(テン)を設立。singing AEON、富士中央幼稚園、映画「トニー滝谷」、TIFF 東京国際映画祭 生活雑貨店「ROU」や新宿の複合施設「NEWoMan」5F『LUMINE 0』のロゴやコンセプト映像のデザイン・アートディレクションを手がける。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

目指すのは、コミュニケーションを生み出すデザイン。

アートディレクターは、社会、経済、産業...さまざまな教養を避けては、なれない職業です。関わるプロジェクトの中では、その目的を一番理解しないといけないポジション。トップの考えや経営理念なども共有し、右腕になることもあります。勉強が必要ですが、さまざまなことが知れるというのは、逆に、この仕事の楽しみかもしれません。

そうした仕事の中で私が大事にしているのは、コミュニケーションを生み出すデザインにするということ。それには物事の『本質』を捉える必要があります。私が幼稚園のトータルデザインに携わった時のことです。幼児教育において重要なのは「常に子供が安心して笑える環境」ではないかと考えました。じゃあそのためには、と突き詰めていくと「母親が笑っていると子供は笑う」ということがわかった。だから、「幼稚園に通う子供の母親が思わず笑顔になるデザイン」を目指していきました。実は、この仕事を受けるときに躊躇した経緯があったんです。「周りにはとんがってカッコいい仕事しているヤツが多いのに...」と。でも、その経験は、今の自分のスタイルの基盤となっています。

このように、人にはそれぞれの宿命があって、アートディレクターにも、それぞれの在り方というものがあるんです。向き不向きがあるし、大きいことをやる人やらない人がいる。大きいことをやる人は、素質がある訳だから磨いていくべきだし。大きいことしないからといって、無理する必要はないんだと思います。自分のやり方は他から学べるものではありません。各々が自分の適性や能力の限界を見極めて、仕事との関わり合い方を発見していったら良いんです。重要なのは、その宿命の中で自分が「やりきった」と思えるかどうかだと思うのです。

さらに、デザインを仕事にしていこうと考えているなら、「自分は何が好きなのか」ということを今のうちから知っておくことが大切です。デザイン業界に入って自分が思ったこと考えたことが形になるまでに、大抵数年かかります。いざ、自分の表現をしようという局面で、好きなものを滲ませなくてはならないのですが、それまでの間に何が好きだったのかを忘れてしまう人が多いんです。学んでいるうちに、好きなものを理解しておいて、いつかのそのときまで、しっかりと持ち続けると良いと思いますよ。