PROFESSIONAL MESSAGEプロフェッショナルメッセージ

福田 一志Kazushi Fukuda

PROFILE
建築家。武蔵野美術大学/大学院卒業、ヴェネツィア建築大学(イタリア政府給費留学生として)留学、設計事務所勤務を経て、現在一級建築士事務所インターコア代表。専攻建築士(統括設計/まちづくり/教育・研究)、一級建築士、インテリアプランナ一、インテリアコーディネーター、Vectorworksプロフェッショナルアドバイザー。家具から都市計画まで幅広い分野で設計活動を行う。ヨーロッパ・アメリカ・アジアと、海外での生活/仕事での経験を生かし、独自の世界観で時の経過のなかでも風化せず存在し続ける空間づくりに没頭中。近年は、「デザインを行う思考過程の中でどの様にコンピュータとの関係を築くか」などをテーマに、教育の分野にも携わる。東京デザインプレックス研究所講師。http://www.i-core.jp

建築や空間を体験し、自分のデザインの価値観をつくりあげる。

学生時代から、世界に出て行くには建築を学ぶのが近道だと思っていました。そして、アメリカやイタリアに留学し、現在も仕事で海外に出かけることが多くなりました。海外で学んだり仕事をしていると、日本のデザインを客観的に見る機会は常々あります。

日本のデザインは、とにかく移り変わりが目紛しい。デザインのライフサイクルが短いのが特徴ですね。建築について日本では、地震や雨が多い国なので、技術的要求が多く、必然的に技術革新が進む一方で、法制度も厳しくなり、デザイン以外に費やす時間が多く取られるのも特徴の一つだと思います。CADやCGの世界の凄まじい進化が見られる昨今は、機能を検証する作業も簡単にできてしまう時代です。建築物を造る前に、仮想空間の中で風や光、熱など、あらゆるシミュレーションを行う。でも、そうやってガチガチに機能主義中心になってしまいがちの状況のなかで、建築家はどうやって豊かな空間を創造するのかが今後の課題だと思います。

そんな中で、私がいいなあと思うのは、「少しぐらい使いづらくても、美しいからいいや!」という感覚。こういう感覚はもの作りが進化する中で、立ち戻った考え方になるかもしれません。でも留学していたイタリアではまだそういった価値感が残っていて、それが、コンピュータにできなくて人間にしかできない設計手法につながっているのではないかと思っています。だからこそ『美しさ』についても厳しくなければならない。私がデザインする上で一番大事にしていることは、“品格”。素材が高価でなくても、品のあるデザインを目指すことが、私のこだわりです。例えばヨーロッパの街並を見ていて感じるのが、古くて塗装がはげているような建物でも、良いと思える魅力があるということ。それこそが、デザインの力だと思うのです。

本物のデザインを知るには、どうしたらいいか。やはり良いものを実際に見てみることが、何よりの学びなのではないかと思います。本でも、インターネットでもなく、建物や空間を“体験”するのです。写真では良いと思っても、実際に行って見てみるとそう思えなかったというものもあるかもしれません。デザインとは、定義のないもの。だから、自分なりの捉え方をしていいと思います。その体験こそが、自分なりのデザインの価値観をつくりあげていくのだと、私は思います。