不確実な時代を生きるための自分軸を持って。
「“デザイン”は目に見えるものをつくること」という定義は、100年近くずっと変わりませんでした。コモディティとドミナントが市場を席巻する戦後の高度経済成長の中、デザインは量産と躍進の象徴として機能しました。人口増加やGDPの伸長が続き、豊かさの指標がお金やモノに直結していた時代、デザインの役割は明確でした。しかし、2000年代に入ると状況は一変します。現代社会は人口減少と少子化に直面し、かつてのグローバリズムの理想は揺らいでいます。さらに、予測不能なAIの台頭は、人々の感じる豊かさの質を根底から変えつつあります。
デザインにおいて重要視されることも移り変わっています。それは、単なる知識の習得から、より本質的な「知恵」への移行です。この「知恵」とは、深く問いを立てる力に他なりません。次世代のデザイナーには、他者の話に耳を傾け、本質を問い、探求する能力がますます求められるでしょう。私たちがこれまで信じてきたデザインの概念は、今後も時代と共に生き物のように変化し、将来、全く新しい定義が次々と生まれると予想されます。
不確実性に満ちた時代を生き抜くためには、何があっても立ち返ることのできる確固たる「自分の軸」を持つことが不可欠。何を学ぶかという以前に、限りある人生で「自分はどう生きていきたいか」という根源的な問いと向き合うべきです。そして、自らで自身を鼓舞できるかどうかが、人生の楽しさを左右します。
私は個人的に、「ワクワク」と「ウハウハ」という二つの感情を大切にしています。プロとして仕事をする上で、「ワクワク」する瞬間は実はそう多くありません。夢中になれる仕事に出会えることは稀で、年間100件のプロジェクトのうち、せいぜい1件程度でしょう。では、残りの99件はどうかというと、そこにあるのは「ウハウハ」だと考えます。「ウハウハ」とは、自分なりのこだわりや問いを持ち、一生懸命に案件に向き合い、時には困難に歯を食いしばりながらも、その結果として成果に繋がったり、新しい答えにたどり着くことで得られる、まさに「得した」と感じるような充足感です。ワクワクする案件に出会えたらラッキーです。一方で、たとえ歯を食いしばって取り組まなければならない状況であっても、それが成長や新たな機会に繋がるチャンスと捉え、その状況さえもワクワクに変える工夫ができる人こそ、どのような対象でもデザインできる真のデザイナーであると信じています。「デザイナー」という肩書きは誰でも名乗れます。しかし、それを生業としていくためには、デザインのことだけでなく、経営の知識や人間関係の調整能力なども必要となります。自身の可能性を常に問い続け、幅広い領域への探求を続けてほしいと願っています。