PROFESSIONAL MESSAGEプロフェッショナルメッセージ

岡本 一宣Issen Okamoto

PROFILE
アートディレクター、グラフィック・デザイナー、出版プロデューサー。1951年長崎市生まれ。1974年武蔵野美術大学造形学部卒。1979年グラフィック・デザインオフィス岡本一宣デザイン事務所を設立。1992年にはビジュアル・コミュニケーターズオフィス岡本一宣企画室設立。2010年にはNPO法人ナガサキベイデザインセンター共同設立。事務所設立以来、出版メディアである雑誌、書籍、写真集、企業PR誌、企業のブランディングデザインなどグラフィック・デザインに関わる全て、スタッフとともに制作活動を行っている。著書に「岡本一宣の東京デザイン」「岡本一宣のPure Graphic」(美術出版社刊 現CCC)がある。出版プロデュース書籍として「長崎インサイトガイド」「安藤忠雄インサイトガイド」「直島インサイトガイド」「高野山インサイトガイド」他、インサイトガイドシリーズが講談社から刊行中。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

感動を知り、ストーリーを紡ぐ力を育てること。

やなせたかしさんが出演するテレビ番組「まんが学校」に絵を投稿して賞をもらった、この子供の頃の成功体験がすべての始まりでした。水泳部と美術部を掛け持ちしながら、1964年の東京オリンピックに刺激を受け、亀倉雄策さんを通して「グラフィックデザイナー」という職業を知りました。最初に夢中になったのはレタリング。漫画雑誌の通信教育募集の広告を見て決意し、勉強を始めたのが中学生の時です。

大学時代は学生運動が盛んで、社会全体が混乱していました。美術大学に入学したものの、当時の美大はデザイン教育機関としての体を成していませんでした。そこで出会ったのが演劇や舞踏。この一見デザインとは関係なさそうな学びが、後に大きな財産となります。当時、社会には「コマーシャリズム=悪」という空気がありました。私自身も、商品を売るための広告を作るより、商品やコンテンツそのものを創り上げることに魅力を感じ、エディトリアルデザインの世界に惹かれました。

雑誌や写真集など本を創る時に最も大切にしているのは、そのデザインのベースとなるストーリー・ドラマを考えることです。学生時代に学んだ演劇や舞踏が、ここで大きく影響しています。一見、デザインとは関係なさそうな経験こそが、素材に怯えないデザイナーとしての懐の深さに繋がるのです。デザインは方法論であり、道具です。その前に、人が感動するような中身を持たせることができなければ意味がありません。自ら感動を手繰り寄せるような様々な経験をしていかないと、デザインの効能は発揮できないのではないでしょうか。

クリエイティブな仕事をしようと思う人は、きっと元来、敏感なセンサーを持っています。その自分のセンサーに素直になることが大切です。オリジナリティを表現したくて、個性を出そうとする人は多いでしょう。でも、個性は出すものではなく、出るものです。個性を出そう出そうと執着すると、表現があざとくなります。むしろ、自分を消していくことで出てくる自分が、洗練された端正な表現となっていくのです。デザインの技量も必要ですが、それだけではありません。様々な経験を重ね、感動を知り、ストーリーを紡ぐ力を育てていくこと。それが、長く活躍できるデザイナーへの道なのかな、と考えます。