PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「自分と社会(企業)との接点を見つける」

電通 アートディレクター/グラフィックデザイナー

田中 せり 氏Seri Tanaka

PROFILE
1987年茨城県生まれ。2010年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 同年電通入社。普遍性と柔軟性を両立したデザインを軸に、企業のロゴやVI開発をはじめ、ブランドのパッケージデザイン、美術や音楽領域のグラフィックデザインに携わる。主な仕事に、日本酒せんきん、小海町高原美術館、本屋青旗、SCAI THE BATHHOUSE、AMBIENT KYOTOのロゴデザイン。森美術館「アナザーエナジー展」、DIC川村記念美術館「カラーフィールド」の宣伝美術。音楽家・蓮沼執太のアルバム「unpeople」のアートワーク、羊文学のグラフィックデザインなど。また、写真の偶発的な現象を扱ったパーソナルワークの発表も行う。2020年JAGDA新人賞、CANNES LIONS、NY ADCなど受賞。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「自分と社会(企業)との接点を見つける」

講義1

今回のプレックスプログラムは、田中せりさんにお越しいただきました。電通でアートディレクターを務めながら、個人での制作活動も行っている田中さんに、デザインをする上で意識していることについて伺いました。一つ目は『しなやかな象徴をつくること』です。「ロゴはブランドを規定する役割を持っていますが、そのためのデザインを守りすぎるが故に展開性や柔軟性を失ってしまうのはもったいない」と話す田中さん。芯を持ちながらも、柔軟に展開できるロゴデザインを意識していると言います。

講義2

二つ目は、『自分と社会(企業)との接点を見つけること』です。「クライアントの要望に100%で応える努力ばかりをして、自分の真ん中が空っぽになっていた時期もあった」と田中さん。クライアントと自分のあいだにある接点(共感できる部分)こそアウトプットするべきと気づき、仕事をクライアントワークではなくコラボレーションとして捉えるよう意識を変えたと話します。「クライアントと話すなかで共感した部分を形にしていくことで、完成したものと自分がかけ離れてしまうことが減りました。」

講義3

続いて紹介してくださったのは、栃木県の日本酒の酒蔵『仙禽』のロゴの事例です。仙禽は「仙人に仕える鶴」という意味を持つことから、丹頂鶴をモチーフにロゴを制作された田中さん。「鶴をあらゆる角度から観察していたら、頭部のユニークさにハッとしました。この赤・白・黒の三色が揃えば、それだけで鶴だと認識できるのではないかと。」色の組み合わせがイメージを想起させるのは、非言語のコミュニケーションが成立しているからであり、海外の方にも視認しやすいアイデンティティになると考えたそうです。

講義4

田中さんはさらに“隠し味”として、3色の円が交わる境界に、絵の具がじわっと混ざり合って隣へ引き込まれるような造形を描きました。「そうすることで、3色の面は単なるPC上のピクセルデータではなく、柔らかな液体のような質感を帯び、物質性を感じさせる造形へと変えることができます。」また、写真や背景の上にロゴを置いた際、ロゴが背景と融合せずにただ貼り付けたように見えてしまうことが気になった田中さんは、三色のうち白の部分だけは透過させて使うというルールを設け、背景をロゴに溶け込ませる手法を採用しました。

第2部:ワークショップ「本質を捉えるコミュニケーション」

ワークショップ1

今回のワークショップでは、5人1組のグループをつくり、疑似的なデザインワークの現場を体験します。1人が依頼人(クライアント)、残りのメンバーがデザイナーとなり、依頼人の名前をテーマにロゴデザインを提案します。「このワークを行う理由は、デザインにおいて大切なのは形を作ることだけではなく、クライアントにどんな質問をし、どんなキーワードを引き出すかという点も重要だと考えるからです。初対面の相手に質問を重ねながら、その人の本質を捉えるコミュニケーションが重要になります」と田中さん。

ワークショップ2

今回のように、同じ情報をもとに複数の人がデザインを考えることで、切り口やアウトプットの違いが生まれます。田中さんはデザインを「視覚言語の翻訳」と捉え、翻訳者が変われば物語の印象が変わるように、デザイナーが変わればアウトプットの切り口も大きく変わると話します。そのため、自分自身の「視覚言語」を理解し、それを意識して表現することが大切だと伝えてくださいました。「このワークでも、自分との接点を見つけ、自分だけの視覚言語で表現することを意識して取り組んでみてください。」

ワークショップ3

グループワークでは初対面同士の方が多い中、デザイナー役の学生は、名前の由来や趣味、これまでの経験や性格など、様々な質問を通してキーワードを拾い上げながらロゴを造形していきます。それぞれが完成させたロゴ案を見てみると、同じ情報からでも全く異なるアウトプットが生まれている様子が伺えました。学生からは「自分のアイデンティティを形にしてもらうのは新鮮だった」「自分の視覚言語が響いた瞬間にデザインすることのやりがいを感じた」という声が聞かれ、実践を通して多くの気づきを得る時間となったようです。

総評

最後に、田中さんから総評をいただきました。「同じ時間で、同じ質問を共有して聞いていたはずなのに、全然違うアウトプットが出てくるのはやっぱり面白いですね。相手に興味を持たないと、質問って出てこないですよね。でも、質問すること自体もデザイナーが得意であるべきことだと思います。そして、出てきたキーワードの中から何を拾うかもデザイナーによって違っていい。何を拾うかというのもセンスであり、形をつくることよりも、そこが一番重要かもしれないですね。」田中さん、この度は貴重なお話をありがとうございました。