テーマ:「価値観を変える挑戦」
株式会社ヘラルボニー クリエイティブディレクター
桑山 知之 氏Tomoyuki Kuwayama
- PROFILE
- 株式会社ヘラルボニー クリエイティブディレクター。1989年愛知県名古屋市生まれ。慶応義塾大学経済学部を卒業後、2013年東海テレビ入社。報道部にて遊軍や愛知県警担当の記者・ディレクター。また「見えない障害と生きる。」といったドキュメンタリーCMをプロデューサーとして制作。2023年、ヘラルボニーのクリエイティブディレクターとして入社し、映像を中心に数多くの企業共創案件や広告制作に携わる。Cornelius「Glow Within」、NHK Eテレ「あおきいろ」内コーナー「くりかえしのうた by ROUTINE RECORDS」などを手掛ける。主な受賞歴は、カンヌライオンズ「Glass: The Lion for Change」ゴールド、日本民間放送連盟賞最優秀賞、ACCコールド、ギャラクシー賞優秀賞、消費者が選んだ広告コンクール経済産業大臣賞など。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義 「価値観を変える挑戦」
講義1
今回は初めてのご登壇となる、株式会社ヘラルボニー クリエイティブディレクターの桑山知之さんにお越しいただきました。ヘラルボニーは、「異彩を、 放て。」をミッションに、障害のイメージ変容と福祉を起点に新たな文化の創出を目指すクリエイティブカンパニーです。「価値観を変えることは容易ではないからこそ、クライアントは単なる取引先ではなく、共に挑戦してくれるパートナーのような存在で心強い」と桑山さん。今回の講義では、異彩を放つ素晴らしい作品を世に届ける為に、桑山さんが大事にしていることをお話ししていただきます。

講義2
クリエイティブの責任者として、“Narrative Communication”を日々心掛けていると話す桑山さん。情報過多の現代において、事実(データ)だけで人々を説得することは難しく、感情に働きかけるナラティブ(物語)が重要なファクターとして重要性を増してきていると言います。「直感的に美しい、かっこいいと感じることも重要ですが、その奥にどれだけ確かなストーリーがあるかが、現代はより強く問われていると感じます。」さらに、右脳(感情・直感)と左脳(論理・構造)を行き来することも、より優れたクリエイティブを生むために重要だと桑山さんは話します。

講義3
「制作や発信の機会が増えた現代では、“伝える”と“伝わる”には大きな差があり、ほとんどのものが本当の意味で伝わっていないのではないか」と疑問を投げかける桑山さん。伝わるものを生み出すためには、「なぜこの商品に、この作家の、この作品なのか」という必然性をもたせ、背景や文脈までを含めて設計すること。また、生活者の視点に立ち返り、「自分だったら買うだろうか」「休日に足を運ぶだろうか」と問い直すこと。このように感情と論理を行き来しながらアウトプットに至るプロセスが、より優れたクリエイティブに繋がると言います。

講義4
続いての話題は、福祉とクリエイティブを考えるにあたり避けては通れない、「経済性」とどう向き合うかというテーマについて。「企業である以上、経済性は重要です。しかし、社会の価値観を変えるという目的は必ずしも利益に直結するとは限りません。儲かるかどうかだけでなく、社会的に意味があるか、自分たちがやるべきことか、という倫理的な判断軸を持つことが必要」と桑山さん。チャレンジできる領域にはたとえ非営利的なものであっても挑戦するという考え方は、長く続くブランドやサ-ビス・商品には欠かせないことだと語りました。

第2部:ワークショップ 「偏見や不平等を打ち破るアイデア」
ワークショップ1
後半のワークショップでは、「偏見や不平等を打ち破るアイデア」をテーマにグループワークを行いました。とあるグループは「飲み会」に焦点を当て、お酒が苦手な人にとって、ソフトドリンクを飲みながら同じ会費を払う状況は不平等が生まれるのではないかと指摘。さらに、「飲み会」という名称自体が、“飲まなければならない”という無意識のバイアスを生んでいるのではないか、という意見も出ました。

ワークショップ2
そこで、誰もがフラットに参加できる新しい名称として「まる会」を考案。“まる”には肯定や包摂の意味が含まれ、「あつ“まる”」という言葉にも由来していると言います。桑山さんは、「とても良いアイデアですね。ここはフリーな場なんだっていうことも伝わるので、例えば食事にアレルギー食材を使わない会や、ヴィーガン食材のみで構成する会など、まる会を応援する食品メーカーと連携して展開していける可能性もあるのではないでしょうか」とコメントされました。

ワークショップ3
他にも、地方と都市の情報格差や高齢者への偏見、会社でのステータスや性別による不平等などが挙げられ、課題解決を目指した多角的なアイデアが考案されました。桑山さんは「偏見や不平等は、どんな集合体でも発生し得るものです。しかし、それをそのままにしてよいかは別問題で、何も手立てがないわけではありません」と語ります。向き合い続けることは人間の使命であり、ヘラルボニーのメンバーとして、障害に対する偏見や不平等を打ち破り、むしろリスペクトを生み出す挑戦をこれからも続けていくと話されました。

総評
社会の価値観や固定観念を覆すことは、決して容易ではありません。それでも挑戦を続ける桑山さんの言葉は、多くの学生の心にまっすぐ響きました。また、私たちが無意識のうちに抱いてしまう偏見についても、あらためて立ち止まり考える機会になりました。最後に総評として「自分自身に嘘をつかずに、自分の“好き”を尊重して生きてもらえたらうれしいです」とコメントをくださった桑山さん。この度は貴重なお話をありがとうございました。
