PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「コミュニケーションをデザインする言葉」

コピーライター/クリエイティブディレクター

国井 美果 氏Mika Kunii

PROFILE
(株)ライトパブリシティを経て、現在は個人事務所。コーポレートメッセージやキャンペーンコピー、TVCM、TVコンテンツ企画など、社内外をつなぐさまざまな言葉やアイデアで企業活動に関わっている。主な仕事に、資生堂コーポレートメッセージ「一瞬も一生も美しく」、資生堂マキアージュ「レディにしあがれ」、伊藤忠商事「ひとりの商人、無数の使命」、キリン「よろこびがつなぐ世界へ」、横浜美術館「みなとがひらく」、ベネッセのこども番組「しまじろうのわお!」の企画、三重県地方創生プロジェクト「VISON」ネーミング、パルコ企業広告など多数。著書に「ミッフィーとフェルメールさん」「ミッフィーとマチスさん」「ミッフィーとほくさいさん」(美術出版社)「かぞくマン(コクヨS&T)」などがある。ADC賞、TCC賞、日経広告賞大賞、朝日広告賞最優秀賞、毎日デザイン賞など受賞多数。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義 「コミュニケーションをデザインする言葉」

講義1

本日のプレックスプログラムは、コピーライター/クリエイティブディレクターの国井美果さんをゲストにお迎えします。「今日はコミュニケーションデザインという広い意味のデザインについて、言葉の視点からお話ししたいと思います」と国井さん。資生堂や伊藤忠商事、キリンなどの企業広告やコーポレートメッセージ、「MAQuillAGE(マキアージュ)」のブランド立ち上げキャンペーンなど、様々なブランドのコピーライティングを担当された国井さんのお話を聞けるとあって、教室には多くの学生が集まりました。

講義2

過去強く心に残った仕事として、キユーピーマヨネーズの「speed!」を挙げた国井さん。「この頃の日本ではスローフードやスローライフが盛り上がっていて、ゆっくりごはんを食べましょうというような丁寧な暮らしが人気でしたが、実際は忙しくてそんなゆっくり食べていられないという現実的な声がありました。」そんな時代に、コピーライターの秋山晶さんが『speed!料理は高速へ』『いちばん速い料理は、(きっと)サラダだ。』などのリアルなキャンペーンをスマートに展開したことに感銘を受けたと振り返られます。

講義3

「世の中でいいとされていることもすぐ鵜呑みにしないで、本当にいいことは何かと、本質を見つめること。それも今思えばコミュニケーションのデザインだったんじゃないかなと思います。」コピーライターの仕事は、企業が言いたいことをそのまま言葉にするのではなく、企業と消費者の両方の立場に立って考え、どちらもより良くなるように提案すること。結果的に世の中の人の気持ちや行動が変わること、より良いベクトルを作ること、動かすことが大事だと国井さんは話します。

講義4

続いての話題は、国井さんがコピーを書くときに心掛けていることについて。そのコピーを書く自分が、もう一方で生活している自分を驚かせるメッセージを作りたい、と意識していると言います。「人はつい自分には甘くなりがちで、いいこと書いたなーと思ったりするんですが、そこは思いきり客観的で冷たい目で見ることで、もう一人の生活者の自分を素直に驚かせたい」。さらに、クライアントの課題の本質に目を向け、自分なりに仮説を立てることの重要性についても語られました。

講義5

具体的な事例として紹介されたのは、資生堂のコーポレートメッセージ『一瞬も一生も美しく』です。「これからの時代の美とは何か。資生堂はどう考え、どう発信するかが一番の肝でした。そして、美しさは顔の上の出来事にとどまらない、その人の生き方そのものだという普遍的なメッセージに辿り着きました」と国井さん。さらに、伊藤忠商事の『ひとりの商人、無数の使命』というメッセージについては、生活者にとって顔の見えない存在だった総合商社の伊藤忠が、もっと顔が見える存在になりたいという経営者の想いから生まれたという制作秘話を聞かせてくださいました。

第2部:ワークショップ 「ノンアルコールが当たり前な世の中のムードをつくるメッセージを考える」

ワークショップ1

後半はワークショップを行います。今回のテーマは「ノンアルコールがもっと当たり前な世の中のムードになるメッセージを考えてください」。飲料メーカーからの発信という想定や、飲食店で貼るポスターでもなんでもいいです、と国井さん。「飲まないことがマイナスにならないようにするものだったり、飲める人への意識改革にもなるような声掛け、またはその行為の名称だったり何でもオッケーです。」学生たちには30分間の考える時間が与えられました。

ワークショップ2

『私は飲まないんですけど、飲まなくてもあなたとの時間はずっと幸せ』という飲まない人の気持ちを素直に表現したメッセージや、『シラフでラフな関係』という飾らない関係性を表現したメッセージ、『ノンそば、ノンエビ、ノンアルコール』というアレルギー表示と同じように捉える視点、『飲まない、じゃなくてクリアを選ぶ』というポジティブな言い換え、『乾杯をカラフルに』という多様性を表現したメッセージなど、多彩なアイデアが発表されました。

総評

コピーは“新しいことを提示していく”というよりは“新しい気づきを提示していく”作業だと思っていて、他では言っていないところを発見しながら平易な言葉で語る、これが難しいところだと語る国井さん。「飲める人も飲めない人も、これを言ってもらったらなんか今までのことがちょっと楽になるとか、違う発想ができるなとか、なんだかいい気分だなとか、そういう気づきがあるかどうかを気にかけながら考えてもらうといいかなと思いました。」国井さん、貴重な講義をありがとうございました。