テーマ:「人とのつながり」
イラストレーター
木内 達朗 氏Tatsuro Kiuchi
- PROFILE
- 木内 達朗 Tatsuro Kiuchi 1966年東京生まれ。国際基督教大学教養学部生物科卒業。材料が安いから君はこれにしなさいと言われ、ゴキブリを飼育して卒論を書く。生物学における理想と現実のギャップに憮然として渡米。イラストレーションの勉強を始める。Art Center College of Design、イラストレーション科卒業。二億枚刷られたというイギリス・ロイヤルメールのクリスマス切手、世界中の店舗にて展開されたスターバックス・ホリデーキャンペーン、ニューヨークタイムズ、ボストングローブ、ワシントンポストなどのイラストレーションを手がける。他に雑誌挿絵、書籍装画、絵本など多数。ボローニャ国際絵本原画展入選。講談社出版文化賞さしえ賞受賞。ソサエティ・オブ・イラストレーターズ/金メダル・銀メダル。東京イラストレーターズ・ソサエティ会員。イラストレーション青山塾講師。ペンスチ主宰。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義 「人とのつながりが、良い運につながっていく」
講義1
今回は初めてのご登壇となる、イラストレーターの木内達朗さんの授業をレポート。以前、成田久さんの授業で「共にクリエイトしたい憧れの人にラブレターを書く」というワークを行いました。その際、ある学生が熱いメッセージを送ったのが木内さん。その想いが届き今回の授業が実現しました。木内さんご自身も、人とのつながりや縁が仕事のきっかけになっていったという実感があると言います。ご自身の歩みを振り返りながら、 “人とのつながり”をテーマにお話していただきます。

講義2
大学では生物学を専攻した木内さんは、卒業後にイラストレーターを志しました。趣味で続けてきた絵を仕事にしようと、売り込みしていきましたが、出版社で厳しい評価を受けたといいます。そこで、アメリカへ留学して、本格的に絵を学ぶことを決意しました。英語が堪能ではなかったそうですが「絵が良ければ評価されて、人とつながっていった」と言います。学科長の紹介で初めての仕事を得て、絵本『THE LOTUS SEED』も担当することに。

講義3
帰国後は、宮沢賢治作の絵本『氷河ねずみの毛皮』を手がけた際、その作品を見たある雑誌編集長と縁ができ、しばらくしてから当時自発的に制作していたマンガの雑誌連載に繋がったといいます。木内さんはこうした経験を「仕事が仕事を運んでくる」と表現しています。その後も絵本の挿絵や装画などを手掛け、その一つ一つの依頼がどのようにきたのか、どのような経緯で描かれたのかなど作品について解説していただきました。

講義4
木内さんの絵の特徴といえば、デジタルでありながらアナログの質感が表現されている点です。その画風に辿り着いたのは、仕事を始めてから約10年が経った頃。「それまでは、アメリカで学んだ油絵を軸に制作していました。しかし、油絵は西洋の影響が色濃く残っていた為、日本の市場には合わないと感じたんです」。そして、デジタルで版画のような質感を表現する画風、木内さんいわく“インチキ版画“に辿り着いたといいます。

講義5
そんな作風の転換のヒントになったのが、日本固有の文化である”俳句”の考え方です。「西洋では作品に“理由”や“意味”の説明を強く求められますが、日本はもっと感覚的に受け取ってくれるように思うのです」。 俳句のように、余計なものをそぎ落として言葉を「五・七・五」に凝縮する。木内さんはその潔さに着目し、絵の中に、“単純で客観的に、見たままが伝わる表現”を意識して、描くようになりました。

講義6
木内さんは、パソコン通信の“句会”に参加し、実際に俳句そのものを嗜んだそう。句会には、現在活躍している作家・装丁家・音楽評論家など数多くのクリエイター方が、無名時代に集っていたそうです。そこでのつながりも、仕事のご縁となっていきました。他にもイラストレーターとして活躍するために、どのように仕事を掴んでいくのか、特に海外から依頼を受ける具体的なノウハウを、ご自身の実例を踏まえてお話してくださいました。

第2部:ワークショップ 「出会いのエピソード」
ワークショップ
今回のワークショップでは「これまでの人生の中で、何かの起点になったり、重要だなと思った出会いのエピソード」をテーマに、発表が行われました。先生、先輩、友人、愛犬、絵画作品など…それぞれの出会いとつながりについて思い思いの発表をした学生たち。発表を通して、その出会いやつながりが今の自分にどう影響しているのか、形成されているのか、改めて見つめ直せる機会になったようです。

総評
「仕事のつながりは、人とのつながり。“運”というのも同じで、人とのつながりが、良い運につながっていきます。良い運が来るか来ないかという発想ではなく、自分から動いて良い運と出会う確率を上げればいいのです」と木内さん、「なるべく多くの人に出会い、その人との出会いやつながりを大切にしてください」とお話ししてくださいました。自ら行動して多くのつながりを得た木内さんの言葉が、学生たちの強い原動力になった今回の授業。魅力的な木内さんの絵も堪能しながらの特別な時間となりました。
