テーマ:「THE CHAKAI/茶会 – 伝統と現代の融合による空間デザイン」
STUDIO KAZ 代表/インテリアデザイナー
和田 浩一 氏Koichi Wada
- PROFILE
- 株式会社STUDIO KAZ代表取締役。1965年福岡県生まれ。九州芸術工科大学芸術工学部工業設計学科を卒業後、トーヨーサッシ(現LIXIL)株式会社を経て、1994年ステュディオ・カズ設立。「キッチンスペースプランニングコンクール」「あたたかな住空間デザイン」「国際家具デザインコンペティション」「TILE DESIGN CONTEST」「座ってみたい北の創作椅子展」など受賞多数。2013年「住まいのインテリアコーディネーションコンテスト」では経済産業大臣賞を受賞。2025年『THE CHAKAI/茶会』がA’ Design Awardシルバー賞受賞。著書「キッチンをつくる/KITCHENING」(彰国社)を刊行。個展、グループ展なども開催。

第1部:講義 受賞作品「THE CHAKAI/茶会」プロジェクト解説
講義1
プロジェクト概要と受賞について:今回ご登壇いただいた和田浩一先生は、意外にも初のプレックスプログラムご登壇となります。和田先生率いるスタジオが手がけた「茶会」が2025年A'Design Award & Competitionにおいてシルバー賞を受賞されました。この作品は、マンションの一室に設置した茶室で、伝統的な茶の湯文化を現代空間で再構築した試みが国際的に高く評価されました。

講義2
キャリアと専門性について:「実は僕はもう全然茶道でもないし、やったこともないんですね」と話される和田先生。プロダクトデザイン出身でありながら、住宅パーツのデザインから空間全体を手がけたいという思いでインテリアデザインの道に進まれました。現在は住宅リノベーション、新築住宅、オフィスデザイン、店舗デザインなど幅広く手がけられ、特にキッチンデザインにおいては「日本で唯一デザイン料をいただくキッチンデザイナー」として独自のポジションを築いています。

講義3
「THE CHAKAI/茶会」プロジェクト誕生の背景:2024年のDESIGNART TOKYOでの展示を目的として、茶室制作への挑戦が始まりました。「茶室を作る時にその内と外の間、この仕切りですね、仕切りっていうのが一番大事なんだろうなと」と語る和田先生は、既存の茶室デザインを徹底的に調査し、喜多俊之氏の「二畳結界」や内田繁氏の茶室シリーズ、隈研吾氏の「浮庵」など、多くの先駆者の作品を研究されました。

講義4
結界という概念の探求:茶室デザインにおける最重要要素として「結界」に着目された和田先生。鳥居、留石、注連縄、玉砂利、さらには箸の置き方まで、身近な結界の事例を挙げながら、「内側と外側の境目で何か変化があるんじゃないか」という考察を深められました。物質には必ず厚みがあり、その厚みの中で何かが起こっているという視点は、デザイナーとしての独自の洞察を示しています。

講義5
素材との出会いと技術的実現:2024年2月、展示会で出会った丹後ちりめんのセンサー内蔵テキスタイルが、プロジェクトの転換点となりました。「この生地のここにセンサーが仕込んである、センサーが織り込んであって、そのセンサーが、あの、布の揺れを数値化する」システムにより、人の動きや風の流れに反応して映像が変化する仕組みを実現。床材には、熊本の実家で廃棄されるい草を活用した世界初の「い草化粧合板」を開発され、プロジェクションマッピングで有名なSYMUNITYグループのクリエイティブ集団「SWAG」との協働により6パターンの映像コンテンツを制作されました。

第2部:ワークショップ「結界デザインを考える」
ワークショップ1
結界概念の理解と発想:後半は、和田先生の茶室プロジェクトから派生した「結界」をテーマとしたワークショップを実施しました。学生たちは限られた時間内で、各自が考える結界のアイデアを発表し合います。「結界なんて考えてもなかったでしょ、皆さん、今まで。なんかそれってすごくいい、面白いテーマかなと僕思うんですね」と和田先生。

ワークショップ2
学生からの多様な視点:デジタルコミュニケーションデザイン総合コースの学生からは、保育士の経験から「安全基地」という心理学の概念と結界を結び付けた発表がありました。「自分を中心にしてこう円があって、その円がこうドーム状にかかってて、その範囲なら自分は安全だ、安心できる」という視点に対し、和田先生は「四角だなと思って」と新鮮な反応を示されました。透明すぎず半透明でプライベートが守られる空間の重要性についても議論が交わされました。

総評
「インスピレーションってどこに落ちてるか分かんないわけですよ」と語る和田先生。留石一つ、木漏れ日の一筋まで、あらゆるものがデザインソースになり得るという視点を学生たちに共有いただきました。デザイナーは常にアンテナを張り、インスピレーションを見逃さない努力が必要であると強調され、「そのインスピレーションをちゃんと見逃さないような努力を常にしていってほしい」という言葉で講義を締めくくられました。和田先生、ありがとうございました!
