PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「音楽デザインの世界を覗く」

グラフィックデザイナー/アートディレクター

秋田 和徳 氏Kazvnori Akita

PROFILE
グラフィックデザイナー/アートディレクター。BUCK-TICKや清春をはじめ、サッズ、黒夢、オート・モッド、カリ≠ガリ、メリー、ストロベリー・フィールズ、松尾清憲、福山芳樹、血と雫、Z.O.A、PIG、THE MORTAL、MORRIEといったアーティストのCDジャケットや広告、グッズデザインのほか、ザ・ビートルズの公式カレンダー、ルー・リードやクーラ・シェイカーの来日公演ポスターなど音楽関連のグラフィックを中心に、楠本まき、池田理代子、鳩山郁子、梅津瑞樹のブックデザインなども手掛ける。

第1部:講義「音楽デザインとクリエイティブディレクション」

講義1

本日のプログラムは、音楽業界を中心に活躍するグラフィックデザイナーの秋田和徳さんをお迎えしてお送りいたします。秋田さんは数々の有名アーティストのCDジャケットやビジュアル制作を手がけ、音楽とデザインの世界を繋ぐ重要な役割を果たしてこられました。今回は、グラフィックデザイナーで当校グラフィックデザイン専攻講師の高安晶子さんが司会を務められ、教室には多くの学生たちが期待を胸に膨らませ集まりました。

講義2

冒頭では秋田さんのデザインについて、ご自身も大の音楽ファンである高安さんから紹介がありました。秋田さんの作品のポイントとして「影によって光を与える表現」「緻密で繊細な空間構成と美しいレイアウト」「ストーリー性を感じる作品たち」の3つを挙げ、「秋田さんの作品は、深く濃い影や闇の存在によって光の部分が際立つという逆説的な魅力があります。そのコントラストが織りなす光景は、見るものに強烈な印象を与えてくれます」と紹介。恐縮する秋田さん。ここからご自身の手による目次に沿って講義を始めていただきます。

講義3

まず秋田さんが見せてくださったのは学生時代に課題で制作した手描きの絵の数々。「当時はPCなどなく、自分が好きなものを表現するには絵を描くしか方法がなくて。この頃は“怒り”の感情を伴わない表現は想像もできませんでした。」卒業後は流されるままに広告デザインの仕事に就くもすぐに虚しさを覚えたといいます。このままではいけない、自分は一刻も早くロックに関わる仕事をしなければならないという使命感に駆られ、あるアーティストのライヴ後に配られた“デザイナー募集”と書かれたチラシを見て即座に電話。まだ入社3ヶ月で何の実績もなかったこともあって、採用されるきっかけになったのはこれらの絵だったそう。

講義4

秋田さんのアートディレクションにおける特徴として、アルバムならば絵作りにもっとも触発された楽曲のタイトルや歌詞の一部、そこから導かれた言葉、共通項のありそうな既存の絵画、写真等も傍に添えてラフデザインを提示することが多いそう。「既存のものは他者とイメージを共有しやすいかなと思って敢えて明記して、バンドメンバーや制作スタッフにこちらの思惑を伝えます。」と、コミュニケーションツールとしても活用していると話す秋田さん。

講義5

ここで秋田さんが学生の頃に感銘を受けたレコードジャケットの話から、ご自身が手がけたデザインの、箱の内側といった通常はあまり気に留めないような部分をいくつか見せてくださいました。「レコードが納められている、覗き込まないと見えない袋状のところにまでデザインが施されているのを見てすごく感激しました。自分にとってレコードは宝物。見えないところにまで気を配るそのスタンスに感動した10代の自分の“心持ち”を次の世代にも味わってもらえたらなと。」ご自身が音楽ファンだからこそ、ファンが喜んでくれるものをつくりたいと日々考えているといいます。

講義6

続いて、秋田さんの作品を当時のエピソードとともに紹介してくださいました。その数の多さ、作品の圧倒的なクオリティには学生たちも驚きの表情を見せていました。その後は学生から秋田さんへの質問コーナーが設けられました。以下にいくつかご紹介します。Q.「参考にするビジュアルはどこから見つけることが多いですか?」A. 「絵画は見てる方だと思いますが、テーマが決まってから探すというよりも、日頃から理由もなく引っ掛かるものとか、そういったアテのないインプットは自分の嗜好を明確にしてくれます。本棚に並んだ書名なんかから刺激を受けることもあります。」

講義7

Q.「コラージュ作品がとても印象的ですが、制作のコツはありますか?」A.「 主題をハッキリさせることですかね。やってるとアレもコレもってなりがちなので。なんだか自分自身に言ってるような気もしますが。」Q.「自分のテクニックが足りない時はどうしたらいいか?」A. 「自分の場合は合成をよくやる割にその技量には自信がないので絵全体の照明を落としてアラを隠すとか、やり方はいろいろあると思います。技量よりアイディア。その見せ方も含めて。とはいえ自分の弱点を知ることも大事。そこを見破られないような作風を確立するのも良いかもしれません。」

講義8

最後に、デザイナーとしての哲学について語られた秋田さん。「嫌いなものをやらないという生き方もあります。やりたくないことをやらなくてもいいと思います」という力強いメッセージで講義を締めくくられました。「こと音楽に関しては対象への愛情が尋常ではないかもしれない。与えられたテーマに寄り添いつつも好きなモチーフを入れ込んだりして自分の得意分野に引き寄せる、それが許されるならラッキーです」と、クリエイターとしての信念を学生たちに伝えてくださいました。